「3-4-3」システム(≒フォーメーション)とは?
「3-4-3」の概要から入ろう(この原稿ではGKの「1」を省略)。通常、最終ラインを形成するのは「1対1」に強さを発揮する3人のセンターバック・タイプの選手。中盤から前線にはいくつかのバリエーションが存在する。
まず、3バックの前に4人のMFがフラットに並ぶものとダイヤモンド型に並ぶものがある。最もオーソドックなフラット型は、両ウイングバックとダブル・ボランチ(ダブル・ピボット)という構成。この場合、ウイングバックが攻守の要となり、前線にウイングがいないことが多い。「『偽9番』+2トップ」(「3-5-2」とも言える)、あるいは「2シャドー+センターフォワード」(「3-6-1」とも言える)という構成がよく見られる。なお、ダイヤモンド型のトップは「両ウイング+センターフォワード」が一般的だ。
「3-4-3」の歴史
3バックの歴史は長い。1925年のオフサイド・ルール変更を受けて「3-2-5」の「WMシステム」と「3-3-4」の「ボルト・システム」が現れた。その後、4バックを主流とする時代を経て1980年代に入ると3バックが復活し、近年、増加傾向にある。
大別すれば、現代的な「3-4-3」には2つの流れがあると言われている。「3-5-2」の流れを汲んだイタリア発祥の「3-4-3」(フラット)。1990年代の後半にイタリア的「3-4-3」で成功を収めたのが、ウディネーゼ(イタリア)を率いたアルベルト・ザッケローニ(元日本代表監督)である。「3-5-2」の「両サイドで数的不利に陥りやすい」という欠点を克服するために3トップに変更して左右のサポートに入れる選手を配置した(「3-4-2-1」)。
「3-4-3」(ダイヤモンド)の始祖と言われているのが故ヨハン・クライフ(1947年4月25日-2016年3月24日)。「4-3-3」に2人いるセンターバックの一方を中盤の底に組み込んで出来上がった。FCバルセロナ(スペイン)やアヤックス(オランダ)で見られたが、3トップに苦戦する傾向が見られ、現在は「4-2-1-3」とされることが多い。
インポゼッション時の「3-4-3」
基本構造上、「3-4-3」は「4-3-3」よりも多くの三角形をピッチ上に描ける。つまり、ポゼッション・サッカーに適している。
中央寄りに陣取ることが多い3トップでは、ゴールを狙いやすいエリアにいるため、ゴールに直結するような仕事が求められる。一方、ウイングのいる「3-4-3」(ダイヤモンド)などでは、左右のウイングがサイドの攻撃を支える。相手サイドバックとの「1対1」を制してクロスを上げたり、深く切れ込んでからマイナスのクロスを上げたりすることになる。
「3-5-2」と同じく、ウイングバックのカバーエリアは広く、多くの任務をこなさなければならない。当然、敏捷性と運動量が求められる。とりわけ、3トップが中央に陣取るケースではウイング的な働きができなければ、攻撃のバリエーションが増えない。また現代では、インナーラップしてトップをサポートしたり、相手DFを引きつけたりするおとりの動きも求められるだろう。
ビルドアップは比較的スタートしやすい。相手が2トップでも3トップでも「3人のDF+GK」によって数的優位にしやすいからだ。そして中盤へボールを運べたならば、中央のDFが中盤に上がってポゼッションに加わったり、左右のDFがサイドのスペースに移動して攻撃の起点になったりする。
ポゼッションのキーマンはトップ、ウイングバック、そしてDFの中心にいるダブル・ボランチだ。「DF→ボランチ→ウイングバック」、「DF→ボランチ→トップ」など直接関与するケースに限らず、「DF→ウイングバック→トップ」というケースでもあってもしっかりと選択肢になれるようにしておかなければいけない。もちろん、ドリブルで攻め上がってスルーパスを通す決定的な役割も期待される。
アウト・オブ・ポゼッション時の「3-4-3」
守備局面では、「5-2-3」や「5-4-1」に変形するのが基本。最終ラインまでウイングバックが下がり、サイドのスペースを埋める。一方、前からプレッシャーを与えるケースでは、3トップと連動してウイングバックは前線にプレッシング・ラインを形成する。なお、3トップが中央に絞っていることが多いため、速攻でなければ、相手の攻撃をサイドに追い出すのは比較的、実行しやすい。
ウイングバックとの綿密な連係が欠かせないのがボランチ。ウイングバックが高い位置に移動した時にはその背後に目を光らせ、ウイングバックが最終ラインまで下がったケースではその前のスペースをケアしなければならない。もちろん、中央突破は最も避けなければいけないことであるため、バランスを見極めた上でのポジション・チェンジが求められる。3人のDFは中央を固めつつ、サイドに空きやすいスペースを誰に埋めさせるかを絶え間なく指示しなければならない。そしてDFがラインをブレークして対応する際に備え、カバー戦術をしっかりと整備しておかなければならない。
サンプル:「3-4-3」
イングランド代表(ガレス・サウスゲート監督:下写真)
サウスゲートは「2人の10番」を配した「3-4-2-1」を好み、ウイングバック(3番のTrippierと15番のChilwell)に幅広い能力を求めている。1つは、正確なクロスを送る能力。「2人の10番」と目される「2」と協力しながら攻撃を構築しつつ、クロスでゴールをお膳立てする。またサウスゲートは、3トップがワイドにポジショニングする「3-4-3」もオプションとして持つ。このケースではウイングバックとウイングがポジションを入れ替えることで攻撃のバリエーションを増やす。
チェルシー(アントニオ・コンテ監督時代:下写真)
3バック復活のきっかけをつくり出したのはコンテ(任期は2016-18)だと言われている。2016-17シーズンにチェルシーの監督に就任すると、3バックを導入してクラブ新記録となる13連勝を記録。プレミアリーグを制覇してみせた。コンテの主軸は「3-4-2-1」。ディエゴ・コスタ(19番のCosta)を脇に構える2人(10番のHazardと11番のPedro)がサポートした。ただしサポートの2人には、初めから中に絞らず、外からドリブルやフリーランニングで中に入るという特徴が見られた。さらに、ウイングバック(3番のAlonsoと15番のMoses)は高い位置をとることも多く、5トップのようにして分厚い攻撃を可能にした。
トッテナム(マウリシオ・ポチェッティーノ監督時代:下写真)
サウサンプトンとトッテナムを率いていた頃のポチェッティーノ(2013-19シーズン)も「3-4-3」の使い手と言っていいだろう。ただし彼は「4-3-3」(逆三角形)を基本としながら「3-4-3」へと変型。シングル・ボランチがセンターバックの間に入り(3バック)、両ウイングバックが高い位置へ移動した。同時にウイングは中央へ絞ってセンターフォワードを支援した。なお、インテリオールの1人(17番のSissoko)がトップとポジションを入れ替えるようにしてスペースを突くパターンも隠し持っていた(下写真)。
チェルシー(トーマス・トゥヘル監督)
「3-4-3」(「3-4-2-1」)を採用するトゥヘルはウイングバックに、前に出るだけでなく、「2人の10番」(「2」)とローテーションしながらゴールに迫ることを求める。リース・ジェイムス(24番のJames)やベン・チルウェル(21番のChilwell)はアタッキング・サードで重要な役割を果たし、メイソン・マウント(19番のMount)やハキム・ジイェックなどはワイドに出たり、下がったりする。また、カラム・ハドソン=オドイのようなウインガー・タイプをウイングバックに起用するのもトゥヘルの特徴だ。そうすることで「より自然な5トップ」を構成するのだ。
メリット
理論上、「3-4-3」はバランスが取りやすいシステムと言える。5人で攻めて5人で守るとしやすいからだ(攻撃は「3-2-5」、守備は「5-2-3」)。中に絞った3トップは相手センターバックに対して数的優位にしやすく、3トップがワイドに構えてウイングバックと協力すれば、サイドでもオーバーロードにしやすい。しかも、「3トップ+両ウイングバック」という5トップは非常にワイドな攻撃が可能だ。
守備におけるメリットも多い。「ダブル・ボランチ+3DF」によって中央に厳しい関門を設けられ、さらにウイングバックが加われば、5バックにしてサイドと中央の守備を固められる。
デメリット
最大の懸念は、3人しかいないディフェンスラインがサイドの対応に難を残すこと。ウイングバックが運動量と献身性を発揮してカバーすることになるが、簡単ではない。この「3バック衰退の原因」をすべてのチームが解消できるわけではないだろう。また、「トップの次はボランチ」という2層構造は、不用意な形でボールを失ってカウンター・アタックを仕掛けられたときにピンチを招きやすいと言える。
翻訳:西澤幹太