「4-2-2-2」の基本構成
「4-2-2-2」は「4-4-2」と同様に、4人のディフェンスラインと4人の中盤、そして2トップという構成。ただし中盤は、底に位置したダブル・ピボットとその前に入る2人のMFがスクエアを形成する。2列目にいる2人の主戦場はサイドではなく、インフィールドに入り、2トップの近くで彼らをサポートする。
「4-2-2-2」の起源
「4-2-2-2」システムは『マジック・ボックス』、『マジック・レクタングル』(魔法の長方形)、『マジック・スクエア』とも呼ばれ、1950年代のブラジル・サッカー界でその萌芽が見られた。例えば、故フラビオ・コスタ(1906年9月14日-1999年11月22日) は「4-2-2-2」システムを用いて自由で流動的、かつ即興を重んじた攻撃的なサッカーを披露した。そして1982年のワールドカップでは、ブラジル代表監督である故テレ・サンターナ(1931年6月26日-2006年4月21日) が「4-2-2-2」を採用して美しいサッカーで世界を魅了し、その中心を成したMF陣(ジーコ、トニーニョ・セレーゾ、ファルカン、ソクラテス)は『黄金の4人』と呼ばれて称賛された。
一方、ヨーロッパではフランス・サッカー界が「4-2-2-2」の先駆けとなり、1950年代から1960年代にかけてリーグ優勝8回という監督最多記録を打ち立てた故アルベール・バトー(1919年7月2日-2003年2月28日)が「4-2-2-2」システムの使い手として知られている。1980年代になると、故ミシェル・イダルゴ(1933年3月22日-2020年3月26日)が率いたフランス代表が大きな成果を残す。ルイス・フェルナンデス、ジャン・ティガナ、アラン・ジレス、そしてミシェル・プラティニという『四銃士』を擁したチームがEURO1984を制覇したのだ。
攻撃時の「4-2-2-2」
最終ラインを構成する4人の働きから見ていこう。
中央に位置するセンターバックは1列前のダブル・ピボットへ確実につなぐように心がける。その上で、前線へのパスコースが空いていればラインを越えるパスを狙う。「4-2-2-2」ではインフィールドでプレーする選手が多いため、サイドバックが攻撃の幅を確保。たびたび、ダブル・ピボットよりも高い位置でプレーする。
ダブル・ピボットは攻守の両面で任務を果たす。ボール保持者に近寄ってパスコースを提供しつつ、ボール・ロストからのカウンターに備える。また、ボールを追い越すような動きで攻撃のオプションとなることもある。守備面ではサイドバックと共闘して相手を挟み込んだり、攻め上がったサイドバックが空けたスペースを埋めたりする。サイドバックのポジションに入った時、2人のセンターバックと3バックを形成するチームもある。
2列目の「2」は2人の「背番号10」。彼らは、このシステムにおいて興味深く、ユニークなポジションと言っていい。ライン間のスペースにうまく滑り込み、ダブル・ピボットやDFからボールを受けて攻撃をクリエイト(上写真)。自らボールを受けるだけでなく、2トップのポストプレーからゴールに迫ることもある。さらにカウンターの急先鋒になったり、セカンド・ボールを拾ってからミドルシュートを打ったりするなど、さまざまなパターンで攻撃に関わる。
サイド寄りのエリアではサイドバックと連係。ワンツーからサイドバックを前進させたり、囮となってサイドバックの攻め込むスペースを生み出したりもする。
最も前線に陣取るセンターフォワードが担うのはチャンスメイクとフィニッシュ。相手センターバックを牽制しつつ、突然の方向転換からスルーパスを引き出してゴールに迫ったり、一瞬のスキを突いてクロスをゴールに突き刺したりする。
2トップがサイドに開くようにして「10番」がドリブルで前進できるスペースを作り出すこともある。しかし通常、2トップはインフィールドにとどまり、ゴールに最も近いエリアでプレーする。
守備の「4-2-2-2」
2トップの振る舞いはチーム戦術次第。ハイプレスを監督が選択した場合、2トップは前からプレッシャーを与える。その際、2つのプレス方向が考えられる。中央でボールをからめ取りたいのであれば「外から中」、サイドへ押し出したいのであれば「中から外」になる。2トップで組む第1守備ラインを越えられたならば、組み立て直しとサイドチェンジを阻みながらプレスバックしてのボール奪取を狙う。
ハイプレスによってサイドにボールを追い込む場合、FWと連動しつつ、2人の「10番」はインフィールドから動き出してサイドバックなどにプレスをかける。また、インフィールドでボールを狩るのであれば、外から中に追い込んで待ち構えていたダブル・ピボットがボールを奪う。ボール・ハントの場所にかかわらず、プレスのポイントになるのが『カーブプレス』。直線的にアプローチするのではなく、孤を描くようにしてアプローチし、パスコースを限定して相手を誘導する(上の写真)。
ブロックで守るケースでは2列目の2人がダブル・ピボットに近づいてスクエア内のスペースを狭くするのが基本。ただしチームによっては、10番がサイドに開くことで「4-4-2」システムに変更して守ることもある。
ダブル・ピボットと4バックの基本タスクはバイタルエリアの守備を固めること。そのためハイプレスでもブロックを築くケースでも、ダブル・ピボットと最終ラインは距離を一定に保って相手にスペースを与えないようにする。仮にサイドバックがラインをブレイクして前に出て相手に対応したならば、最終ラインはスライドしてサイドのスペースを埋めなければならない。
「4-2-2-2」のサンプル
マヌエル・ペジェグリーニ(多くのクラブで採用)
マヌエル・ペジェグリーニは、指揮したレアル・マドリード、ビジャレアル、マンチェスター・シティなどで「4-2-2-2」を用いた。ただし、「4-2-3-1」や「4-4-2」でスタートしながら試合状況に合わせて「4-2-2-2」へコンバートすることもあった。
2009-10シーズンに監督を務めたレアル・マドリードでは、カカー、エステバン・グラネロ、グティ、ラファエル・ファンデルファールトという豪華なメンバーから選ばれた2人の「10番」が主にインフィールドで2トップをバックアップ。攻撃の幅を確保したのはマルセロ(12番のMarcelo)とアルバロ・アルベロア、あるいはセルヒオ・ラモス(4番のRamos) というサイドバックだった(下写真)。
ラルフ・ハーゼンヒュットル
(RBライプツィヒ&サウサンプトン時代)
マンチェスター・ユナイテッドの新監督候補ともなったハーゼンヒュットルは、攻守にわたって「4-2-2-2」を貫徹。カウンター・プレスから繰り出す直線的なカウンター・アタックで白星を稼ぎ出す。
2018ー19シーズンの途中から率いるサウサンプトンでも主システムは「4-2-2-2」。サウサンプトンでの特徴と言えるのが、右サイドバックが高く張り出し、左サイドバックがやや下がったポジションをとることだ。具体的にはカイル・ウォーカー=ピータース(2番の Walker-Peters) やティノ・リブラメントという右サイドバックが高い位置で幅を確保して左サイドバックは自重、逆サイドで幅を確保するのは主に「10番」となる(下写真)。「10番」がワイドに移って生まれたインフィールドのスペースにはFWの1人(11番のRedmond) が下がって縦関係の2トップになることも多い。
ラルフ・ラングニック
(RBライプツィヒ&マンチェスター・ユナイテッド時代)
ラルフ・ラングニックはマンチェスター・ユナイテッドの監督に就任(2021年11月)すると、マーカス・ラッシュフォード(10番のRashford)とクリスティアーノ・ロナウド(7番の Ronaldo)が前線に並ぶ「4-2-2-2」システムを採用。2列目を構成する右のブルーノ・フェルナンデス (18番の Fernandes)と左のジャドン・サンチョ(25番のSancho)のプレー・エリアをインサイドへとスライドさせ、サイドバックがタッチラインに広がる縦長スペースを利用した(下写真)。
「4-2-2-2」のメリット
「4-2-2-2」採用による最大のメリットはインフィールドでオーバーロードにしやすい点だ。
インポゼッション時、相手が「4バック+ダブル・ピボット」であっても、「2トップ+2人の『10番』」で対峙して「4対4」の数的同数にできる。「相手+1」という守備原則を打ち破れるだけでなく、センターバックを釘付けにすることで「10番」は高い位置でボールを受けやすい。
また、ダブル・ピボットの存在がサイドバックの攻撃参加を促す。サイドバックが上がってスペースを生んでも、ボール・サイドのスペースにピボットの1人が滑り込めば難なく埋められる。しかも、そもそも中央に多くの選手がいるため、ポジション・チェンジやローテーションを組み込まなくても中央の守りを固められるのも強みだ。
また、攻撃から守備へのトランジションにも強みを見いだせる。ボールを失った際に中央でカウンター・プレスに移行しやすいのは大きい。インフィールドの守りを固めつつ、ボール奪取に成功したら中央から最短距離のカウンターを繰り出せる。
守備面で言えば、ミドルブロックを組みやすい。さらに、相手やボールをサイドに追い出しやすいのもメリットだろう。
「4-2-2-2」のデメリット
「4-2-2-2」に限ったことではないが、メリットとデメリットは表裏一体。インフィールドに選手を割くために攻撃の幅は約束されていない。とりわけワイドなカウンター・アタックは仕掛けにくい。また、幅を前提とするポゼッション・スタイルとは相容れないことが多く、FW、2列目、ピボット、センターバックが同一ライン上に並びやすいため、パスコースが減りやすいのもマイナス材料だ。
守備の弱点はサイドバックがオーバーラップした時に露呈しやすい。ピボットがスライドしてスペースを埋められない場合、センターバックの負担が大きくなる。また、攻撃に切り替えてサイドバックが前加重になった時にカウンターを浴びると、ディフェンスラインが崩壊しやすい。対策が必要な点だ。また、サイドのスペースを空けるシステム上、正確なサイドチェンジには後手を踏みやすい。後追いによる体力消耗を避けるためにはスライドを避ける守備の徹底か、サイドを変えさせない厳しいプレスが求められる。