「4-4-2」とは?
「4-4-2」システムはDF、MF、FWという3ラインから成り、3ラインを保ちやすいのが持ち味の一つとされている。ディフェンスラインは2人のセンターバックとサイドバック、中盤は中央の2人(現在のダブル・ボランチやダブル・ピボットと両サイドハーフの4人で構成。前線には2人のセンターフォワードが並んでいた(2トップの顔ぶれは時代とともに変化) 。
「4-4-2」の起源
20世紀半ば頃、「WM」システムの後継として「4-2-4」という新しいシステムが登場した。このシステムの特徴は、高くポジショニングして前線の幅を確保した両ウイング。両サイドの翼は、前線の中央に構えた2人のFWと共に、あるいは単独で攻撃を仕掛けた。
1958年のワールドカップ(スウェーデン大会)では、ブラジル代表が「4-2-4」を採用して初優勝を果たした。そして12年後の1970年のメキシコ大会では、1958年大会の優勝メンバーであったマリオ・ザガロ(1931年8月9日生まれ)が監督を務め、「4-2-4」を変形させたシステムで世界を魅了した。
一方、旧ソビエト連邦(現在のロシア連邦)の故ヴィクトル・マスロフ(1910年4月27日-1977年5月11日)は両ウイングが下がり、2人のセンターハーフと中盤を構成するバリエーションを考案。これが「4-4-2」の原型であり、中盤の人数を増やして中盤で数的優位にしやすくした。マスロフは、組織的、かつ規律を有したチーム・プレッシングの発展にも貢献。このアプローチが奏功し、1960年代後半にはFCディナモ・キエフ(現在はウクライナ・リーグ所属)をリーグ3連覇に導いた。
攻撃時の「4-4-2」
2トップに課せられた最大の役割はゴール前でチャンスを作ってフィニッシュすること。そのため通常、相手センターバック付近にポジショニングして攻撃に「深さ」をもたらす。チャンスメイクにおいては、走り込んだMFにポストプレーからパスしたり、意図的に中盤に落ちることでMFにスペースを与えたりする(下の布陣図)。
前線のウイングが中盤に下がったため、「4-4-2」は『ウイングレス・システム』とも呼ばれたが、サイドハーフがサイドを攻略してクロスを供給。また、ドリブルでカットインしてFWとのコンビネーションから中央を攻略した。さらに、2トップとポジションをローテーションさせ、サイドハーフがインフィールド(内側)や逆サイドへと向かうチームもあった。
中盤の底に位置する2人のセンターハーフは最終ラインとFWを正確なパスでつなぐリンクマンとして働きつつ、『ボックス・トゥ・ボックス』(ペナルティーエリアからペナルティーエリアを駆け回る選手)として広いエリアをカバーした。同時にサイドハーフもサポート。サイドに出てアーリークロスを供給した。
サイドバックもサイドハーフを支援。自陣でのビルドアップ時には中央に入ってサイドに張ったMFと連係し、相手陣内でサイドハーフが中に絞ったケースではサイドハーフが空けたスペースへオーバーラップを仕掛けた(ゴールラインまで攻め上がったり、アーリークロスを入れたりした)。
中央の防御壁となったセンターバックだが、センターハーフへのパス、そして『インサイド・チャンネル』(サイドと中央の間)をドリブルして攻撃の前進にも貢献。もちろん、サイドハーフへのパスでサイドチェンジを図ったり、ダイレクト・プレーを演出するパスを前線に送ったりもした。
守備時の「4-4-2」
相手のビルドアップに対しては、中央のエリアを前進させないように2トップが中央に絞ったポジショニングにするのがスタート。そしてFWの背後に位置する相手MFへのパスコースを消しつつ、外へ追い込むようにプレッシャーを与える。
FWの後方では、サイドハーフとセンターハーフが並ぶようにしてフラットなラインで守る。FWも連動して立ち位置を調整し、前線と最終ラインをコンパクトにできるようにする(下の布陣図)。ボールがサイドに展開されたならば、MFはボール・サイドに徐々にスライド。ボールのないサイドのサイドハーフは中央に入ってスペースをカバーする。
基本的な守備方法も確認しておこう。センターハーフは中央の選手を至近距離でマークすることが多く(マンツーマン)、サイドハーフは相手のサイドハーフやサイドハーフをケアできる適切な距離で守る。
最終ラインの選手もラインをコントロールし、全体をコンパクトに保てるように心掛ける。前との距離だけでなく横との距離にも注意。適切にスライドするだけでなく、時には内に寄せてDF間の距離を狭めて中央の守備を固めるべきケースもある。特に、相手がダイレクト・プレーを好んだり、サイドからクロスを連発したりする時にはセンターバックがボールをはね返しやすく、そしてこぼれ球を拾いやすくするためにそうする。もちろん、前や横だけをケアすればいいのではなく、裏のスペースへのランニング、そしてパスに対応できるように準備しておく必要がある。
なお、センターバックはライン間に落ちてポストプレーを試みるFWに対するフォローを怠ってはならない。サイドバックには前に飛び出して相手選手に対応することも求められる。そうしなければ、相手をフリーにして正確なクロスを許すからだ。
「4-4-2」の使い手
サー・アレックス・ファーガソン
(元マンチェスター・ユナイテッド)
ファーガソン好みの「4-4-2」では、最終ラインを回り込んで深い位置からクロスを上げるだけがサイドハーフの役割ではなく、インサイド・チャンネルに流れ、攻撃をサポートするボックス・トゥ・ボックスのMFと連係プレーを披露(下写真)。トップの2人は前線の同じ高さに立つのではなく、段差をつけるようにしてパスのターゲットとなった。サイドバックも攻撃参加するものの、サイドハーフが守備に回れる状態になってからオーバーラップすることが多かった(リスク管理)。守備時も「4-4-2」。前からプレッシングすることもあったが、通常は守備ブロックを形成して堅陣を築いた。
ファーガソンのサッカーを端的に言えば堅守速攻。流動的に動くことを2トップとサイドハーフに許可した上で迅速なカウンター・アタックを求めた。
ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)
アトレティコ・マドリードを率いるシメオネの基本システムは「4-4-2」。持ち味である堅い守備を実現するためにミドルブロックやローブロックを多用し、コンパクトなユニットを選手に求めた(下写真)。つまり、危険エリアをカバーすることで試合をコントロールするのだ。
攻撃面では、サイドハーフがインフィールドに入って2トップをサポートし、サイドバックがオーバーラップを時折、仕掛ける。ただし、スペースを埋めるために選手を中央に割く、これがシメオネのサッカーだ。
ラルフ・ハーゼンヒュットル(サウサンプトン)
ハーゼンヒュットルのサウサンプトンでは、「4-4-2」の陣形で前からアグレッシブにプレスをかけて守る。その際は、2人のセンターフォワードが相手バックラインに張り付き、外側にカーブしながらボールを押し出す(下写真。10番のAdams)。そして最も近いサイドハーフ(24番のElyounoussi)が前に飛び出して行く手をふさぎ、残りのMFはスペースをカバーするためにスライドする。
攻撃時には、シメオネの「4-4-2」と同様、中央に多くの選手を配置するのが基本。特にハイサイドや中盤でボールを奪い返したら、中央の人数が多くなるように動く。
ショーン・ダイチ(元バーンリーFC)
ダイチとシメオネには共通点が多い(下写真)。共に、「4-4-2」を組んでミドルブロックかローブロックで陣地を優先して守り、多才なDFがスペースをカバーする。そしてダイチのチームでは、ブロックの中に誘い込んだ相手に積極的なプレスと『デュエル』(1対1)を仕掛けてボールを奪う。攻撃権を得たならば、FW(9番のWoodと10番のBarnes)は高い位置に陣取り、幅と確保したサイドハーフ(25番のLennonと11番のMcNeil)のクロスからゴールを目指す。サイドバックはサイドハーフをサポートするが、A・マドリードのように高い位置まで攻め上がることは稀である。
ダイチがセレクトするトップには顕著な傾向が見られる。クリス・ウッド、アシュリー・バーンズ、ヴォウト・ヴォフホルストなど、闘争心と身体能力を備え、しかも空中戦に強い選手を好む。ハードなプレーで前線を混乱させるためだ。
「4-4-2」のメリット
「4-4-2」は、2トップを高い位置に据えた場合、4バックに対し、とりわけ中央のセンターバックに対して「2対2」にすることで脅威を与えられる。もちろん、サイドハーフやセンターハーフがトップと連係プレーを織り成すことで脅威を増せる。さらに、トップの高いポジショニングは効果的なカウンター・アタックを可能にする。
また、システム的にもカウンター・アタックに適している。カウンター・アタックを仕掛けるのであれば、コンパクトな守備ブロックを深く設定して相手を誘い込んでカウンター用のスペースを確保。ボールを奪って素早くスペースにFWが走り、ボールを供給すれば速攻が成立する。
守備面に目を転じれば、サイドで数的不利に陥ることが少ない。常に、MFとサイドバックという2枚を用意できるからだ。一方、「4-3-3」もウイングとサイドバックの2枚を用意できるが、ウイングがサイドバックをサポートするには長駆が求められる(時間がかかる)。サイドでの利点をうまく活用すれば、「4-4-2」はハイブロック、ミドルブロック、ローブロックのすべてにおいてコンパクトさとバランス、そしてカバーリングを可能にし、強力な守備を構築できるのだ。
「4-4-2」のデメリット
「4-4-2」の中盤は4人いるが、中盤に3人いるシステムに対して後手を踏みやすい。例えば、相手が「4-3-3」システムを敷いた場合、中盤の中央で「2対3」となるからだ(反面、サイドでは優位に進めやすい)。そうした相手を想定し、ポゼッションを優位に進める対策を練っておく必要があるだろう。
また、守備ラインを明確にしやすい反面、守備が硬直しやすい欠点もはらむ。コンパクトに陣形を整えても、ライン間に入った選手に対してラインをブレイクするオプションを用意しなければ守備は破綻。さらに、中盤の4人がたった1本の縦パスで一気に抜かれかねない。そうした事態を避けるためには「守備時はライン間を埋めやすい『4-1-4-1』」という選択肢を用意すべきだろう。
攻撃時にも克服すべき課題はある。非常に整然としたシステムであるため、パスコースを確保しづらい面があるのだ。例えば、センターバックとセンターハーフ、そしてセンターバックが一直線に並べば、パスコースは激減。「4-3-3」が多くの三角形を描いてパスコースを確保できるのとは好対照を成す。攻撃時に転じたら、縦と横を調整してパスコースを生み出す戦術の浸透や選手の工夫が求められる。