3バックとは?
「3バック」は通常、センターバック・タイプの選手を3人起用して構成される。中央の攻撃ルートを3バックが埋め、サイドをカバーするのはウイングバックと呼ばれる選手。攻撃時のウイングバックは高い位置に張り出して攻撃の幅を確保し、守備時には最終ラインまで下がって5バックを構成する。なお、主な3バックのシステムは「3-5-2」、「3-4-1-2」、「3-4-3」、「3-3-1-3」などである。
また、4バックで守りつつ攻撃時には3バックに切り替えるチーム、つまり4バックと3バックを併用するチームもある。
最も一般的な4バックから3バックへの移行を紹介する。まず、ピボットやボランチの1人が2センターバックの間に下がる(5バック)。同時並行的に両サイドバックが高い位置へと移動することで3バックへと移行する。もう一つは、4バックを構成していたセンターバックやサイドバックの1人が中盤に上がり、残りの3選手で最終ラインを再構成するものだ。ペップ・グアルディオラ時代のバイエルン・ミュンヘンでは右サイドバックのフィリップ・ラーム(元ドイツ代表)がピボットの位置に入ることで3バックへ移行していた。
3バックの歴史
1920年代までは、ほとんどのチームが2バックの「2-3-5」システムを採用していた。しかし、1925年にオフサイド・ルールが変更されると変化が見られるようになる。「攻撃者とゴールの間に2人いればオンサイド」(3人から2人へ減少。通常はGKとDF)となり、相手の3トップに対してマンマークで相対するために3バックを採用するチームが見られるようになった。この変革における先駆者の一人と言われているのが故ハーバート・チャップマン(1878年1月19日-1934年1月6日)。3バックを用いた「WM」システムでアーセナルの黄金時代を築いた。
さらに、2トップに対して数的優位になれる「2ストッパー+リベロ」という構成の『ボルト・システム』や『カテナチオ・システム』というものが生まれた。その後、4バック・システムが主流となるが、1980年代に入ると3バックが復活の兆しを見せる。EURO1984では攻撃的な「3-5-2」を採用したデンマーク代表がベスト4に進出して鮮烈な印象を残し、1990年のイタリア・ワールドカップでは「3-5-2」の長所を活かした西ドイツ代表が優勝を果たした。さらにアヤックスやFCバルセロナが「3-3-1-3」で魅力的なサッカーを披露し、20世紀の終わりには元日本代表監督であるアルベルト・ザッケローニが「3-4-3」でウディネーゼを躍進させた。
攻撃時の3バック
3バックは攻撃面でも多くのメリットをチームに提供できる。
まず、後方からのビルドアップを容易にする。3バックが両インサイド・チャンネルと中央にバランス良くポジショニングし、ウイングバックがサイドに入ることでいわゆる「5レーン」に選手を配置できる。中盤とトップのポジションを整備すれば、前進、そして組み立て直しのパスコースを確保しやすくなる。さらに、中央のセンターバックが前に出たり、下がったりすることで両センターバックとのパス交換をスムーズに実施できる。あるいは、中央のセンターバックが深い位置に相手を誘い込んでから両脇のセンターバックへ展開すれば、そこからウイングバック、あるいはMFへと一気に打開できる可能性が広がる。
相手がローブロックの守備を選択した場合、3バックの面々はより攻撃面で貢献できる。例えば、3バックがワイドに広がって左右の揺さぶりをかけつつ、ペナルティーエリアに角度のあるクロスを供給したり、オーバーラップかアンダーラップしたりしてパスのターゲットにもなり得る。いずれにしても、攻撃参加することで広いエリアでオーバーロードにできる。2トップの相手に対しては、さほど工夫せずに「3対2」という数的優位に持ち込める。3人でボールを動かしてフリーなセンターバックを生み出し、その選手がドリブルで前進すれば第一守備ラインを越えられるという寸法だ。仮に相手が人数をかけて「3対3」にしてきたならば、GKを含めてビルドアップするか(「4対3」)、長めのパスを放ち、中盤か相手最終ライン付近に発生する数的優位な状況を活かせばいい。ともかく、第一守備ラインを越えるのはたやすいはずだ。
守備時の3バック
3バックは最終ラインに割く人数が4バックよりも多いため、ボールをロストしても守備に備えやすい。従って、守備へスムーズにトランジションできるだろう。
一方、2センターバック(4バックの場合)にピボットがドロップして3バックを形成してビルドアップしていると、中盤中央にスペースを生みやすく、守備移行時のノッキングは失点のリスクを高める。この点は留意すべきだ。
相手にボールを保持されているケースの3バックは間隔を狭めてペナルティーエリア内に構え、とりわけ中央の選手は深めに位置してクロスをはね返す役目を担う。両サイドのセンターバックはやや浅めに位置してクロスに備えるだけでなく、セカンド・ボールに対処。さらに両脇の2人は、ウイングバックの背後を狙うスルーパスを出された場合は思い切り良くチャレンジすることも必要とされる。
最終ラインを固める3バックだが、ラインをブレイクして飛び出すべきケースもある。1つは、3バックの中に潜んでいた相手FWが中盤にドロップしてボールを受けようとした時。もう1つは、相手のボール・ホルダーがドリブルで中盤を抜け出して来た時だ。そして1人の選手がブレイクした時、残りの2人は間隔を狭めてギャップを埋めるようにする。
3バックを採用する主な監督
近年、3バックが復活しつつある。3バックを好む監督を紹介しながら、彼らの戦術を解説する。
アントニオ・コンテ(ユベントス&イタリア代表&チェルシー&インテル&トッテナム)
ユベントス、チェルシー、そしてインテルを率いてリーグ優勝を果たしてきたコンテは3バックの愛好者だ。ユベントス時代の「3-5-2」では中盤が縦に「3-2」と並び、2人のメッツァーラが攻撃の軸となり、インサイド・チャンネルや中央からゴールをうかがった。イタリア代表でも「3-5-2」を採用したが、「3-3-4」に見えるほどにウイングバックが高いポジションを維持。ダイレクトなサッカーでEURO2016では決勝進出を果たした。チェルシーではセンターフォワードが2人のインサイド・フォワードを従える「3-4-3」、インテルでは「3-5-2」を駆使してリーグの頂点を極めた(上写真)。
クリス・ワイルダー(シェフィールド・ユナイテッド時代)
シェフィールドをプレミアリーグへ導いたワイルダー(2016-21シーズンに指揮)は柔軟性に満ちた「3-5-2」(「3-1-4-2」)を作り上げて注目を集めた(上写真)。特徴的だったのがセンターバックのオーバーラップ。インポゼッション時、ウイングバックがチームの幅を広げるとシングル・ピボットが深いエリアにドロップ、両脇にいるセンターバックがドリブルで前進したり、持ち場を離れたりしてオーバーラップを仕掛けたのだ。この『オーバーラッピング・センターバック』(6番のBasham)が「3人目の動き」を利用して守備ブロックの外側へ攻め上がり、ウイングバック(2番のBaldock)さえも追い越し、さらにFW(17番のMcGoldrick)が下がって2列目(4番のFleckと7番のLundstram)の攻め上がるスペースを作り出して相手の守備を混乱させた。
デイヴィッド・モイーズ(ウェストハム)
モイーズが3バックで試合に臨む場合、彼は、サイドバックを本職とする選手を同じサイドのウイングバックとセンターバックに起用する(下写真)。例えば、アーサー・マスアク(26番のMasuaku)を左ウイングバックに据え、後方に位置する左センターバックにアーロン・クレスウェル(3番のCresswell)を起用するのだ。マスアクが高い位置に張り出した時にはクレスウェルがスライドして左サイドバックのように振る舞う。そしてクレスウェルは深い位置から前線にクロスを供給したり、アンダーラップしたりして攻撃に厚みを加えた。アーセナル在任期の終盤、アーセン・ベンゲルも同じような戦術を採用。「3-4-2-1」の左センターバックに起用されたナチョ・モンレアル(本職は左サイドバック)がアンダーラップして攻撃参加していた。また現在、アーセナルを率いるミケル・アルテタは「3-4-3」の左センターバックに配するキエラン・ティアニーに同じようなプレーを求めている。
ペップ・グアルディオラ(バイエルン・ミュンヘン&マンチェスター・シティ)
グアルディオラはインポゼッション時に3バックを多用し、チーム事情に応じて2つの編成方法を使い分ける。1つは、両サイドバックが高い位置へ移動し、ピボットが最終ラインにドロップするもの。このパターンでは下がったピボットがパスを広角に散らして攻撃を組み立てる。もう1つは、サイドバックの一方がピボットの位置に入り、ダイヤモンド型やボックス型の中盤を構築するもの。「3-4-3」の陣形を描く。現在、指揮するマンチェスター・シティでは後者を採用。左サイドに入ったジョアン・カンセロがピボット役を演じ、右サイドバックのカイル・ウォーカーは、2人のセンターバックと3バックを形成することが多い。
3バックのメリット
3バックは中央における空中戦と地上戦のプロテクションを強化できるだけなく、相手のパスに対するカバーリングのバリエーションも増やせる。また、4バックよりもセンターバックが多いため、相手の攻撃をサイドに追いやれる(相手は人の少ないサイド攻撃を選択しやすい)。しかも1人がラインをブレイクして飛び出しても4バックと同じ2人で中央を守れるのだから、安定した守備を築けるのは明らかだ。
また、3バックが逆三角形を描くようなポジショニング(かつてのリベロ・システム)にすれば、堅牢なローブロックが実現可能。この陣形をうまく操れれば、ウイングバックの背後など、サイドを攻略しようとする相手にも問題なく対処できる。
3バックのデメリット
当然のことながら、センターバックを2人から3人にするには、中盤や前線の人数を減らすことになる。そのため、ボール保持率を高める策略のないチームやボール保持率で相手に劣る試合では数的優位な状況で攻撃を仕掛けることが難しくなる。
また、3バックではピッチの横幅をカバーするのが難しい。とりわけ、ウイングバックの背後が狙われやすい。トランジション直後、サイドにボールを入れられたならば、3バックの1人がカバーして凌ぐことになるが、繰り返しスペースを突かれるようでは選手の疲労度が増すだけなく、守備の安定感が保てない。しかも、押し込まれ続けることで5バックでの戦いを強いられ、5バックになって中盤での主導権を手放すという悪循環に陥りかねない。仮にボールを奪還しても、ウイングバックが上がるまでボールをキープできる力がなければ、幅広い攻撃ができない。すると、FWに闇雲にボールを放り込む散発的な攻撃ばかりになり、相手の攻撃を受け続ける劣勢から抜け出せなくなる。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN 編集部