エドゥアルド・カマヴィンガ
レアル・マドリード: 2021〜現在
プロフィール
驚くべきスピードで成長しているエドゥアルド・カマヴィンガ。2021年8月31日にレアル・マドリードに19歳で加わると、9月12日(◯5-2セルタ)にリーガ・エスパニョーラでデビューを果たし、初ゴールもマークした。その後も成長を続け、2021-22UEFAチャンピオンズリーグの決勝(◯1-0リバプールFC)に出場して早くも勝利の美酒を味わっている。
今回は、著しい成長を続けるカマヴィンガの分析リポートをお届けする。
コンゴ共和国籍の両親を持つカマヴィンガはアゴラの難民キャンプで2002年11月10日に生まれ、2歳の時にフランスへ移住。『AGLドラフ・プジェー』の育成部門で技を磨き、11歳の時にスタッド・レンヌのアカデミーに移った。スタッド・レンヌとプロ契約を締結したのは2018年12月14日。16歳1カ月というクラブ史上最年少で契約を結ぶと、2019年4月6日にアンジェ戦(△3-3)でデビューし、16歳6カ月というクラブの最年少出場記録も打ち立てた。
2019-20シーズンに入ると、2019年8月18日のパリ・サンジェルマン戦(◯2-1)で初アシストをマークし、2019年12月15日のリヨン戦(◯1-0)では初ゴールでチームを勝利に導いた。このシーズン、最終的には25試合出場して1得点。2020-21シーズンには35試合に出場して主軸としての地歩を固めた。
金の卵に目をつけたのはレアル・マドリード。『白い巨人』は2021年8月31日、カマヴィンガと2027年6月30日までの6年契約に合意したことを発表した。移籍金は3100万ユーロ、約40億円とされている。
レアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督は言う。「彼は若いが、実に多くのタレントを秘めている。レアル・マドリードにおいて彼は、ルカ・モドリッチやトニ・クロースのように欠かせない存在だ」
フランス代表
2019年11月5日にフランスの市民権を取得すると、わずか7日後にカマヴィンガはU-21フランス代表に選出された。翌2020年8月27日には17歳9カ月という若さで初めてフランス代表に招集された。9月8日のクロアチア戦(◯4-2)に後半から出場した彼は再び年少記録を樹立。17歳9カ月と29日は第2次世界大戦後では最年少での出場だ。
2020年10月7日に代表初ゴール(◯7-1ウクライナ)を決めたカマヴィンガは2021年に開催された東京オリンピックのメンバー入りを果たすも、スタッド・レンヌが拒否したために出場できず。しかし、2022年のカタール・ワールドカップには出場。チュニジア(●0-1)とのグループステージ最終戦で左サイドバックとしてプレーし、アルゼンチンとのファイナルでも71分からディディエ・デシャン監督によってピッチに送り出された。
テクニカル分析
左利きのカマヴィンガが主戦場にするのは最終ラインの前。アウト・ポゼッションの時にはピボット(守備的MF)として4バックの前に陣取り、中盤の盾として機能する。イン・ポゼッション時にはセンターバックからボールを受けて展開し、もう少し前でプレーする際にはライン間を移動しながらパスを受ける。
カマヴィンガが試合中によく使うのが左足のアウトサイド。ボールをストップする時時だけでなく、体からボールが少し離れていてもアウトサイドを頻繁に使う。アウトサイドでボールを扱って相手をかわりたり、ターンしたりする。無論、パスを送る際にも左足を使うことが多い。
レアル・マドリードでは選手のポジショニングが整備されているため、カマヴィンガ(12番のCamavinga)は10〜20メートルくらいの鋭いグラウンダーのパスを多用する。レアル・マドリードでは、攻撃の基礎を成しているのがショートパス(上写真)。短距離のパスは多いだけでなく、その成否はゲームでも重要な役割を果たしている。
一方、ゲームにおいて決定的な役割を果たすことも少なくない中距離のパスにおいてカマヴィンガは貴重な役目を担う。彼のパスは精度が高いため、味方の元へと確実に届くからだ。
左サイドバックの可能性
U-21フランス代表時代を含め、「4-3-3」システムにおけるシングル・ピボットを主戦場とするカマヴィンガだが、ほかのポジションでもプレー可能。前述したように、カタール・ワールドカップでは左サイドバックとしてプレーしている。また、「3-4-3」システムや「3-5-2」システムのチームではダブル・ピボットの一角を占めたこともある。
ただし、「カマヴィンガに左サイドバックとしての適性や守備力がある」から起用されたわけではなさそうだ。むしろ、レフティーであることや順応性の高さが左サイドバック起用の最も大きな要因だろう。左サイドバックに負傷者が出た時など、レアル・マドリードのアンチェロッティ監督もカマヴィンガを左サイドバックとして送り出すことがある。オリジナル・ポジションこそ左サイドバックだが、足元でボールを受けたがる彼は頻繁にポジションを上げ、中盤よりも前に攻撃が前進した時にはインサイド・チャンネルでボールを受けたりもする(下写真)。つまりアンチェロッティは、カマヴィンガに守備を求めているのではなく、ウイングであるヴィニシウスと連係して左サイドに数的優位を作ることを求めているのだ。
レアル・マドリードの攻撃が前進した際、カマヴィンガ(12番のCamavinga)とヴィニシウス(20番のVinicius)は斜めの関係になる。こうすることで、左のタッチライン際にいるヴィニシウスへのパスコースを引きつつ、ゴールへ向かう選択肢も持てるようにしているのだ。
攻守におけるタスク
カマヴィンガは左足での優れたボール・ハンドリング能力を持ち、ショートパスとミドルパスの精度も高い。しかし、正確性とパワーの類まれな操り手でありながら、ロングシュートは得意ではない。
もっとも、シングル・ピボットとして低いエリアでプレーすることの多いカマヴィンガが相手ペナルティーエリア内や付近でボールを奪うことは少ない。相手ペナルティーエリア内でのプレー機会も少ない。つまり、彼に与えられた戦術的な役割はゴールを奪うことではないため、ロングシュートを不得意にすることが極端に彼に不利に働く要素とは言えない(スタッド・レンヌでは4シーズンで2得点。2021-22シーズンは2得点)。自分のゴールを守ることと攻撃の創造において十分に存在感を発揮して要望に応えている。
レアル・マドリードを預かるアンチェロッティ監督がカマヴィンガに課している役割は明白だ。一つは、ネガティブ・トランジションにおいてカウンター・アタックの第一防波堤になること。もう一つは、ディフェンシブサードにおいてサイドバックが数的不利な状況に陥りそうなケースで果敢にサイドに移動してサポートすることだ。
それだけではない。中盤中央でも重要な任務を担っている。それは、センターバックがはね返したボールを含めたセカンド・ボールの回収であり、彼の後方で待ち構えている相手FWへのスルーパスをカットすること。ただし、これらの役割を遂行できるかどうかは、チーム状況、とりわけサイドバックの状況が影響する。サイドバックのいずれかが劣勢に陥るような展開であれば、カマヴィンガはサイドでのプレーが増加。すると、中央を空けざるを得なくなり、タスクを果たせなくなるのだ。
長い足をうまく使って相手からボールを絡め取る能力に恵まれたカマヴィンガ(身長182cm)だが、気になる点もある。それは、「右足でボールを奪う」。ボール保持者に対して斜めに構えた時、左足で対応すべきケースであっても右足で出してしまい、相手に背中を見せることがある。
上の写真のようなケースで、カマヴィンガ(12番のCamavinga)が右足を出してボールに触れなければ、相手に背中を見せるため、「次の対応」がどうしても遅れる。次の状況で非常に不利になる可能性が高い。あるいは「ボールを奪う」というはやる気持ちを抑え、タイミングをじっくり見計らったり、タッチライン際に追い込んだりするプレーも身につけるべきだろう。
高い身体能力を活かして事なきを得るケースも多いが、より高みに到達するには克服すべき課題と言っていいだろう。
適正ポジションは?
まだ20歳の選手であることを考えれば当然なのだが、カマヴィンガは今後、「自分に最も適したポジション」、「自分が最も力を発揮できるポジション」を見出さなければいけない。多くの関係者が抱いている「彼はピボットとして大成するのか、インテリオールとして羽ばたくのか?」という疑問に答えなければならない。
ピボットの道を極めるのであれば、彼の非凡なボール・ハンドリング能力は大きなメリットになる。ディフェンディングサードやミドルサードでハブとなってボールの配給役を担える。持ち前の推進力に満ちたドリブルも低い位置からのほうが発揮しやすい。ビルドアップ時にセンターバックが第1守備ラインを越えてカマヴィンガにパスできれば、攻撃の前進は約束されたようなものだ。プレッシャーを受けたとしても、マカヴィンガがボールを失う可能性が低いのは心強い。
ピボットの位置であれば、比較的相手のプレッシャーも軽いため、相手アタッキングサードのライン間に入っている味方へのパスコースを落ち着いて探せる(下写真)。また、サイドチェンジを通じ、フリーなサイドバックやウイングにボールを渡して「1対1」の状況を生み出すこともできる。さらに、ワイドに出たカマヴィンガ(12番のCamavinga)はボールよりも後ろでプレーする傾向にあるため、前線の選手に対する好パスの供給源になりやすい。
普通であれば、「ピボットに適正あり」で終わりでもいいのだが、彼の優れたテクニックが議論を呼ぶとも言える。使いどころを見極めながら、足の裏を使って相手のプレスをいなしたり、『マルセイユ・ルーレット』で抜いたりもできる。そうした技術に裏付けされたイマジネーションをインテリオールなど、「より攻撃的なポジションで発揮させたい」という考えが生まれるのはむしろ自然。それだけのポテンシャルを秘めているのだ。
インテリオールでプレーしたならば、ライン間でボールを受け、持てる能力を活かして局面を打開するだろう。ピボットでもそうしたシーンは見受けられる。また、相手センターバックの近くまでポジションを上げ、相手の危険地帯で数的同数を作ることも可能だろう。
相手のペナルティーエリア付近でプレーしたならば、マカヴィンガの高い技術はより輝きを増すだろうし、決定的なパスを出すために役立つだろう。現状ではさほど見られないが、スペースに入り込んだり、クロスを上げたりするワイドプレーヤーと連係する「新しいカマヴィンガ」の市場価格はアップするに違いない。
また、「ゴールから離れている」や「後ろに守備的MF(レアル・マドリードであればオーレリアン・チュアメニ)がいる」という安心感がカマヴィンガにさらなるチャレンジを促すだろう。インテリオールでプレーしたならば、先程触れた「少ない課題」も覆い隠せる。
いずれにせよ、適正ポジションが論争の的になるのはカマヴィンガが大いなる可能性を秘めているから。そしてレアル・マドリードという強豪で経験を積んでいけば、自ずと答えが見えてくるだろう。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部