マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、「フォーメーション(スタート時点での並び。日本ではシステムとも表現)は電話番号にすぎない」と言う。シティの試合を見ればその意図が分かる。選手はフォーメーションに縛られず、オリジナルのポジションから流動的に動くからである。元の陣形に留まることはほぼないため、グアルディオラにとってフォーメーションは重要ではないのだ。
だが、我々を含めた一般人には、フォーメーションはチームや監督の戦術を理解するのに役立つ「骨組み」だ。この記事では、代表的なフォーメーションを解剖する。監督がフォーメーションを選ぶ理由や各フォーメーションのメリットとデメリットを理解する上で役立てほしい(なおこの原稿では、GKの「1」を省略してフォーメーションを表示)。
4-3-3(「4-1-2-3」と「4-2-1-3」)における最大のメリットはインポゼッション時の中盤で数的優位をつくりやすい点だ。前線に3選手(センターフォワードと2ウイング)が並ぶため、セオリーに則って相手は4バックで対応する。すると、攻撃チームは残り7人(+GK)、守備は6人となる。しかも中盤の中央に3人の選手がいることため、多くのフォーメーションに対して数的優位をつくりやすい。例えば、相手のダブル・ボランチに対して「3対2」にできる。こうしたことは、相手の最終ラインを突破したり、全体的なポゼッション率で上回ったりする上で役立つ。
そもそも4-3-3は構造上、フィールド上で選手がトライアングルを描きやすく、パスコースをつくりやすい。「(理論上)ポゼッション・サッカーに向いている」と言われる所以である。実際、1990年代には故ヨハン・クライフが4-3-3を用いたポゼッション重視のチームを生んで脚光を浴び、近年ではジネディーヌ・ジダン時代のレアル・マドリーが大きな成功を収めている。
守備面でも3トップにはメリットがある。それは、前線からのプレッシャーを2トップよりも与えやすい点だ。また、中盤を逆三角形(「4-1-2-3」)にした場合、前からプレッシャーを与えながら中盤と最終ラインの間もケアすることができる(中盤の底に位置するMFがバランスをとる)。また、攻撃時と同じ理由により、中盤の中央エリアで数的優位をつくりやすい。
インポゼッション時のデメリットはセンターフォワードが孤立しかねないこと。相手が3バックでも4バックでもセンターフォワードは数的不利になるため、ハードワークしなければいけない。あるいは、数的不利を物ともしない力強さや破格のテクニックを有した選手の存在がフォーメーション採用の前提になるとも言える。
中盤にもケアすべき点がある。中央では数的優位をつくりやすい反面、相手の中盤が4人(「4-4-2」)や5人(「3-5-2」や「4-2-3-1」)の場合、劣勢に陥りやすい。とりわけ、サイドチェンジを繰り返されたりすると、フィジカル的な負担が大きくなる。しかも、サイドチェンジやカウンター・アタックでは手薄なサイド(サイドバック)が標的にされることに留意しなければいけない。「ウイングが下がる」という防御策もあるが、ウイングが守備に追われれば、センターフォワードはさらなる孤立を強いられる。
2トップであるため、4バックの相手に対してゴール前で「2対2」にできる(数的同数)。また、フィールド上で3ラインを組みやすく、相手を挟み込みやすい。しかも、フィールド上に選手が均等に散らばっているため、ボール奪取後にポゼッションを開始したり、サイドやセンターからカウンター・アタックも仕掛けたりできる。守備時に2トップが下がれば、相手の中央突破を防ぐための第一防御壁になる。堅守をベースにするディエゴ・シメオネ監督(アトレティコ・マドリード)が4-4-2を好むのは、最終ラインと中盤の8人がコンパクトな陣形を保ちながら左右に移動できるからだろう。
4-4-2はパスサッカーにはそれほど適していない。ボールを動かして攻撃するには、ハードワーク(ランニングや動き直し)が必要だ。しかも、流動性の低い4-4-2を組むと、チームメイトの存在がパスを展開する障害になり得る。例えば、センターバック、ボランチ、そしてフォワードが一直線に並びがち(三角形を描きづらい)。つまり、ポジション移動を戦術に組み込まなければ、相手にパスコースを先読みされやすいのだ(インターセプトのリスクをはらむ)。
相手を挟み込みやすい反面、フラットな最終ラインと中盤ラインにこだわると、ライン間のケアが難しくなる。特にライン間に飛び出して来た選手にパスが通ると、複数の選手が一気に置き去りにされてピンチを招きかねない。また、相手の中に絞った3トップや「2トップ+MF」に対して2人のセンターバックは中央で数的不利に陥るため、バックアップ・プランを用意しておく必要がある。
攻撃時に10番(「3」の中央に位置するMF)がポジションを下げると、中盤の中央で『オーバーロード』(数的優位)をつくりやすい。中盤のポゼッションやボールを前進させるオプションを増やせる。
4-2-3-1の良さは4-3-3(「4-1-2-3」)と比較すると分かりやすい。10番は4-3-3(「4-1-2-3」)の8番(前めのMF)よりも高いポジショニングにしやすいため、中盤とセンターフォワードをつないだり、プレッシャーを受けづらいライン間に入り込んだりできる(2トップに近づく)。さらに、2人のボランチがいるため、高さを変えて守るとライン間を守りやすく、センターバックも援護を得やすい。さらに中央だけでなく、サイドチェンジへの対処力も高い。結果、サイドバックも攻撃参加が仕掛けやすい。この点も4-3-3(「4-1-2-3」)と異なる。
守備的MFが2人いるため、攻撃は「3+1」の4人(例外あり)。ボールを前に運んでもゴール前に入れる選手が足りない、あるいは少ないということが起こり得る。また、中盤の中央には10番を含めた3人しかいないため、このエリアに人数をかけられるフォーメーション(「4-3-1-2」や「4-2-2-2」など)に対して守備時に数的不利になるケースが見られる。10番の負担が大きい。また、4-3-3(「4-1-2-3」)よりはましとは言え、このフォーメーションも、サイドからカウンターを仕掛けられた上での正確なサイドチェンジには脆さを見せる。
ダイヤモンド型の中盤(「4-3-1-2」)における最大のメリットは、中盤の中央に4人にいること。極めて重要なエリアで攻守においてオーバーロードをかけられる。同時に、前線の中央では4バックの相手に対してセンターバックとの「2対2」(数的同数)にしやすく、(相手が)3バックのときはそのメリットを手放すことになるが、中盤では多くのフォーメーションに対して数的優位に持ち込める。
ダイヤモンド型はライン数が多いため、ライン間を狭めやすく、とりわけ中央の守備を分厚くできる。その利点を活かすため、守備時に2トップのポジショニングを相手のビルドアップを中央へ追い込むようにするチームもある(サイドへのパスコースを消す)。一方で、守備時間が長くなると予想されるチームがあえてダイヤモンドにすれば、相手の攻撃ラインをサイドに限定できる。
中央に選手を割く分、サイドバックの攻撃参加を促せなければ、サイド攻撃が機能しない(中央突破偏重)。守備時にはサイドからのカウンターを浴びるリスクも抱える。しかも守備陣形が整う前にサイドバックの前を突かれると中盤の底にいるMF(上写真の5ブスケツ)が対応することになり、それが連続するとフィジカル的な負担が限界を超える(あるいは攻撃面で貢献できない)。
特徴は5人のMFがいること(下写真は中盤がフラットな「3-5-2」。トップ下のいる「3-4-1-2」もある)。最小限のポジション移動によってサイドから攻撃を仕掛けられる。また、3人のMFは2トップを絡めた中央突破をちらつかせながら、ワイドに構えるウイングバックを使ったサイド攻撃も狙える。さらに、中盤でボールを支配している間にウイングバックのポジションを上げさせ、相手を押し込むこともできる。「2トップ+2ウイングバック+攻撃的MF」という攻撃を仕掛けられれば、相手はかなりの脅威を感じることになる。
守備に関しては、3人のセンターバックがいるため、2トップには数的優位の状態で守れ、3トップに対してはウイングバックを下げて5人で対応可能。あるいは2人のボランチを下げて中央を固めるオプションもある。3バックにはビルドアップ開始時のアドバンテージもある。4人(「GK+3バック」)いるため、2トップでも3トップでも数的優位にしてビルドアップを開始できるからだ。
最大の難点は、ウイングバック適任者の人材難。まず、4バックのサイドバックやウイングと異なり、攻守で貢献できるオールラウンダーである必要がある。さらにサイドのレーンを1人でカバーできるくらいの運動力も求められる。そもそも、サイドにはウイングバックしかいないため、攻守において数的不利に陥りやすい。こうした状況下で力を発揮できる選手は多くない。さらに、後手を踏んだ時にウイングバックを下げて5バックに移行すると、サイドのレーンを相手にみすみす手渡すことになる。中央の守備でも課題がある。相手の中央攻撃に対して左右センターバック(上写真の4クリステンセンや2リュディガー)が引っ張り出されると、相手にスペースを与えることになる。
4-3-3との違いは、3トップの両サイドがサイドが「サイドの10番」のように振る舞えること(ウイングバック〈下写真の21カスターニュと15メウニエル〉がサイド攻撃を担う)。サイドの10番となって中盤に落ちれば、MFと四角形やダイヤモンドを形成してオーバーロードできる。さらにライン間でも脅威を与えられる。相手がダブル・ボランチなら「2対2」にでき、相手がシングル・ボランチなら「2対1」にしてセンターバックを引き出せるからだ。
3トップが、ワイド、しかも高い位置にすることで手にするメリットもある。まずは、4バックを釘づけにしてほかのエリアで数的優位にできること。さらに、ウイングバックがポジショニングを高められれば、数的優位にしてサイドから攻められる。
守備メリットもある。ウイングバックを下げれば、素早く5バックに移行して強固な最終ラインを組める。また、3トップが幅を狭まれば、2トップよりも効果的な前線からのハイプレッシャーを与えられる。
「ウイングバックの悩み」からは逃れられない。それは、5バックに移行した際、中盤のサイドで相手に主導権を握られることとウイングバックに対する要求の高さだ(「3-5-2」の項を参照)。また、3-5-2と同じ弱点も抱える。それは、中央攻撃に対する対策とウイングバックの孤立を避けるための手段を講じなければいけないことだ。
翻訳:西澤幹太