エンドリッキ・フェリペ
SEパルメイラス:2022年〜現在
プロフィール
「4000万ユーロ(約59億円)+出来高2000万ユーロ(約29億円)+税金1200ユーロ(約18億円)」で総額100億円オーバーという移籍金でレアル・マドリードが新たな選手を獲得した。
移籍金が高騰する近年では珍しくない額とも言える。しかし獲得したエンドリッキ・フェリペは2006年7月21日生まれの16歳であり、FIFAの規定上、レアル・マドリードに加入できるのは18歳になる2024年7月21日以降となれば、話は別。異例な出来事であり、偉大な才能の持ち主であることは明白だろう。
ヴィニシウス・ジュニオール(2000年7月12日生まれ)獲得に際してもレアル・マドリードは同じような手法を用いている。16歳10カ月の時にCRフラメンゴでプロデビューした時点で移籍に合意。レアル・マドリードに実際に加わったのは18歳となった2018年7月20日だった。
4歳でサッカーを始めたエンドリッキはすぐさま頭角を現し、ブラジル国内の名門が熱視線を送る中、11歳でSEパルメイラスと契約。以降5年間で169試合に出場して165ゴールを積み上げた。2022年には『サンパウロ州ユース大会』に出場して7試合で7得点を決めてチームを優勝に導き、ヨーロッパのメガクラブがこぞって俊英の獲得に動き出した。
エンドリッキがプロデビューしたのは2022年10月6日。ブラジル選手権のコリチーバFC戦(◯4-0)に後半から出場し、16歳2カ月16日というSEパルメイラスの最年少出場記録を樹立した。10月25日にはアトレチコ・パラナエンセ戦(◯3-0)で初ゴールをマーク。ブラジル・サッカー史上2番目の年少得点記録となっている。
レアル・マドリードでもプレーした元ブラジル代表のロナウドは言う。
「彼は有望な選手であり、すでにプロとしてプレーしている。彼の未来は彼自身、そしてブラジル代表にとってセンセーショナルなものになるだろう」
テクニカル分析
エンドリッキは左利きのアタッカー。フィニッシュ・エリアでダイナミックに動け、高い確率でゴールを陥れる能力を持つ。単なるフィニッシャーと見れば、彼の真価を見誤ることになる。ゴールに近づいた時、彼は決してエゴイスティックにならず、自分よりも高いゴールの可能性を秘めたチームメイトを探す能力にも長けている。チームの勝利に貢献できるアタッカーなのである。もちろん、ブラジル人らしいトリッキーなテクニックも持ち合わせる。
モダンなアタッカーである彼は、いろいろなポジションで持ち味を発揮。左右のウイングとセンターフォワードはもちろんのこと、トップ下やインテリオールとして2列目でもプレーできる。多様な能力を持つエンドリッキ(16番のEndrick)は、前線に張りつかず、状況によってはドロップしてライン間でボールを受けて攻撃のリズムに変化を加えられる(下写真)。
「1対1」での勝率も非常に高い。多少不利な状況であっても相手を抜けるだけでなく、スペースがあればスピードを活かして「1対2」の数的不利な状況でも突破できる。スピードと加速力も彼の武器である。
ファイナルサードなど、選手が密集するエリアでのプレーも苦にしない。高い技術とアジリティーを活かして混戦を抜け、エンドリッキ(16番のEndrick)はゴールにアプローチする(下写真)。
ボールとの関係
「1対1」で強さを発揮する一方、エンドリッキは「1対1」を避けるのも巧み。ボールを受ける際の抜け目ないオフ・ザ・ボールの動きや味方とのコンビネーションで相手を置き去りにできる。視野の広さも彼のストロング・ポイントとして挙げておくべきだろう。
高い技術の持ち主ではあるが、ドリブルで見せるボールタッチは極めてシンプルだ(下写真)。必要以上にボールに触ることなく、インサイドでの確実なボール・コントロールと緩急を織りまぜて前進する。無駄のない「運ぶドリブル」でチームをアタッキングサードへと導く。
シンプルなタッチによるドリブルの破壊力を高めているのが「調和性」。ボールとランニングのスピードを常に調整してボールが足に吸い付くようなドリブルを彼は行なう。それをうまく使ってタイミング良く方向を変え、対峙する相手を一気に振り切る。さらに、体を相手よりも前に入れることで手出しできなくする。
ウイングに入った時の彼は得意の方向転換を巧みに操ってマーカーをはがし、斜めに進んでゴールに接近。現在は、特に左ウイングに入った時、ダイアゴナルなドリブルが威力を発揮している。
多くのスカウトの印象に残っているのがエンドリッキの力強さだろう。
多くの選手は相手のタックルやチャージに手を焼くが、彼の場合は「ドリブルでぶつかっていく」と言ってもいいくらい。スラローマーのように相手の間を軽快に抜けて行くのではなく、ブルドーザーのように相手にぶつかりながらでも目標地点へ向かえる。
普通の選手なら倒れるようなケースであっても踏みとどまって進めるような強靭な体幹、そして下半身の強さを有している。非凡なアジリティーと相まって相手にとっては扱いにくいドリブラーだ。
ストライカーとしての資質
エンドリックは、ボックス・トゥ・ボックスのストライカーと表現していいだろう。つまり、多少の誇張はあるとしても、ペナルティーエリアからペナルティーエリアまでのエリアを仕事場にできる選手なのだ。
例えば、ハーフウェーライン付近でボールを受けた時にGKが前に出ていれば、正確にコントロールされたボールでGKの頭上を抜いてゴールを陥れる。またフィジカル・コンタクトでも活きる下半身の強さは得点場面でも彼に味方する。ほぼノーモーションと形容してもいい動きから強烈なシュートを放つことができるのだ。 GKとすれば、一瞬の気も抜けない。
センターフォワードとして出場して得点にフォーカスしているエンドリッキはたいてい「いいタイミングで、いい場所」にいるため、味方はパスを出しやすい。またカウンター・アタックの場面ではボールを受けて攻撃を仕上げられるし、ドリブル・スキルを活かして味方をフリーにし、フィニッシャー役を託すこともできる。
前述したが、エンドリッキのオフ・ザ・ボールの動きは秀逸。それは、相手のマークとチェイスを困難にする。
持ち前のスピードとオフ・ザ・ボールの良さが発揮されるのはファイナルサードであり、あるいはカウンター・アタックのシーンである。「ボールを受けられる」と予知した彼はわずかなスペースを一瞬にして占拠してボールをレシーブし、ゴールへ向かって一直線に駆ける。
身長173センチのエンドリッキは小柄な選手と言ってもいいが、空中戦を避ける素振りはまるで見せない。むしろ積極的。チームがダイレクト・プレーを選択して浮き玉が行き交うような展開であっても、彼はエア・バトルに挑み続ける。
決して歩のいい戦いにはならないが、体をぶつけて相手の思い通りにプレーさせなかったり、少しでも対応が遅れた相手であれば勝ってみせたりもする。
無論、エンドリッキ(16番のEndrick)のセールス・ポイントは得点力であり、アタッカーとしての資質だが、守備での献身性も見逃すべきではないだろう。ボールを奪った相手に対してカウンター・プレスを仕掛けるのはもちろん、味方が奪われた時もすぐさま守備に切り替えられる。時にはタックルでボールを奪い返して攻撃の端緒となり、ビルドアップでも懸命なチェイシングを見せる(下写真)。
さらなる高みへ
数々のストロング・ポイントに恵まれ、将来を嘱望されているエンドリッキ(16番のEndrick)だが、まだ16歳。ヨーロッパでの活躍に関してはすべてが予測の域を出ない。少なくとも、経験を積んでさらに成長しなければ、戦術的なレベルが高いヨーロッパの水に慣れるのに苦労するだろう。
また、多くの専門家が指摘するのがボールに対する高すぎる意識。自身の役割を整理し、シンプルなフリーランニングなどを身につけてより効率のいいプレーを習得すべきだろう。状況とエリアに合わせてプレーを選択できるように判断能力に磨きをかける必要がある。特にパスとドリブルの使い分けは重点ポイントになるだろう(下写真)。
攻守における戦術理解度を高めるのも必要なことの一つ。ヨーロッパでは試合ごとに異なるシステムにしたり、状況に応じてシステムを使い分けたりするのが当たり前になっている。エンドリッキもシステム自体の特性を学び、システムにおけるポジションと自身の役割に対する理解を深めなければならない。攻守においてコレクティブに振る舞えなければヨーロッパでは生き残れないからだ。例えば、判断力に優れた選手なのは間違いないが、身勝手なプレーからボール・ロストの原因になることもあるため、この点は改善すべきだろう。
とは言え、こうした改善点は16歳の選手が抱えていて当然のこと。高いクオリティーと優れたスピードをさらに向上させ、判断力も高めていけば、最高レベルの舞台で主役として活躍する運命にエンドリッキはある。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部