ゴール期待値とは?
「ゴール期待値」(expected goals)とは、サッカーで使われる統計的な指標の一つ。チャンスの質についてより多くの情報を得るためのものである。また、ゴール期待値の略称としては「xG」が使われる。
サッカーにおいて各シュートの難易度は同じではない。「ゴールからたった2メートルの距離。しかも正面からのシュート」と「ゴールから40メートルの距離。しかもタッチライン際からのシュート」では、前者のほうがゴールの可能性は明らかに高い。にもかかわらず、1本のシュート、あるいは1ゴールとカウントしていては差異を表せない。その点を改善するため、すべてのシュートに値をつけて難易度を含めた数値にするのがゴール期待値である。
ゴール期待では、各ショットに0.00から1.00の値を割り当てる。この値は、ゴールにつながる確率を反映させたもの。以下にサンプルを紹介する。
0.01 xG:100回に1回の確率でゴールになると予想されることを示している。言い換えれば、ゴールに入る確率は1%。あまり良い確率ではない
0.99 xG:平均的なプレーヤーが100回に99回の確率で決めるゴール。ほぼ確実なゴールであり、外れることは極めて稀と言っていい
ゴール期待は個別のシュートを分析するために使用されることが多く、1シーズンや複数シーズンなど、長期にわたって算出したほうが実情を反映しやすい。また、各選手の値を算出するだけでなく、チームの値を算出して比較することにも意味はある。
ゴール期待値の算出方法
ゴール期待値は各会社が採用しているモデルや算出方法によって決まるが、各モデルの基本的な考え方は似ている。なお、The Coaches’ Voiceでは『Wyscout』社の数値を使用している。
Wyscout社の場合、膨大な量のデータを分析し、数十万もの過去のシュートの結果に基づいてゴール期待値を算出。シュートを打った位置、使った体の部位、チャンスを作ったパスの種類、プレーの局面(カウンター・アタック、セットプレー、オープンプレーなど)、相手の位置など、さまざまな状況を考慮している。なお、PKに関しては、一定の割合で得点されるため、一定の値が割り当てられている。
ゴール期待値使用のメリット
サッカーでは、「試合を支配していたのに勝てない」など、曖昧な分析(感想)が幅を利かせてきた。「試合で実際に起きたことを表現する術」を持っていなかったと言っていい。要するに、表現できなかったことを表現しようしたのがゴール期待値。この数値は、シュート数やポゼッション数といった基本的なスタッツよりも正確にパフォーマンスを理解し、数値化することを可能にする。
具体的には、ある選手やチームのフィニッシュの良し悪しをゲーム中、あるいはそれよりも長い期間にわたって判定することができる。
例えば、xGが示唆する期待値よりもあるチームが多くのゴールを決めた場合、その期間中のフィニッシュは良かった(あるいはラッキーだった!)と結論づけられる。また、チームや選手が得点するために良いポジションをとっていたかどうかを判別する上でもxGは役立つ。仮に、ある選手やチームがゴールから見放されいる時、ゴール期待値を算出して現実と比較すれば、「もっとゴールを奪えているべきだった」と結論づけて改善点が見いだせるだろう。
ゴール期待値の限界
ただし、ある試合のゴール期待値を算出し、ゴール期待値によってあるチームのパフォーマンスを分析した場合、偏った結論を導き出す可能性もある。
例えば、AチームとBチームが対戦し、AチームがBチームよりも試合の合計xGにおいて3ポイント上回ったとしよう。これは、Aチームが試合を支配したことを示唆している。しかし実際は、Bチームが試合序盤で3点のリードを奪い、Bチームが守りに入ったためにAチームが多くのチャンスをつかんだのかもしれない。つまり、ゴール期待値が紡ぎ出すストーリーは真実とは異なるかもしれないのだ。
xGを上回る意味
選手やチームがゴール期待値を上回るゴール数を継続的に決めている場合、その選手やチームは特に優れたフィニッシュ能力を持っていることが示唆される。ゴール期待値を上回っているのが短期間であれば、その選手やチームが自信に満ち溢れた『パープル・パッチ』(幸運な時期)を過ごしていることを示唆するデータかもしれない。しかし、幸運な時期が終わると、難しいチャンスからはあまりゴールを決められなくなることがよくある。とは言え、選手やチームのゴール合計数がゴール期待値の合計に戻るとは考えにくい。幸運期後は平均的な割合でのゴールに落ち着くかもしれないが、彼らがすでに奪った「エクストラ・ゴール」が減ることはない。だから選手個人やチームのゴール合計数はゴール期待値より多いままであるべきなのだ。
xGを下回る意味
もし選手やチームのパフォーマンスがxGに満たない場合、それは選手が得点するチャンスを無駄にしていることを意味する。言い換えれば、平均よりもフィニッシュ能力が低いことになる。しかし長期にわたってxGを下回り続けることはあまりない。時間の経過とともに、より安定した割合で得点するようになり、xGに近づいていくはずだ。
実際のゴール期待値
世界のサッカー界で最高クラスの選手やチームは質の高いチャンスを大量に作り出し、ゴール期待値よりも多くのゴールを決めている。
ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティはペナルティーエリアの両脇でボールを奪取し、そこからゴール前に横パスを入れ、中の選手はシンプルにボールを押し込んでゴールを奪う。こうしたゴールシーンはゴール期待値が高く、ゴールになる可能性が非常に高い。結果、マンチェスター・Cのゴール期待値はシーズンを通して非常に高くなる。
しかも、マンチェスター・Cには非常に優れたフィニッシャーを要している。だから簡単なチャンスだけでなく、難しいチャンスもゴールを奪える。Wyscoutのデータによると、2021-22シーズンのプレミアリーグにおいてマンチェスター・Cは91 xG弱から99ゴールを奪取。このゴール期待値と実数が示すのは、チームの作ったチャンスからは91ゴールが期待されるが、実際には8ゴールも多い99ゴールを決めていること。マンチェスター・Cがリバプールと勝ち点1差でプレミアリーグを制したことを考えれば、ケビン・デ・ブライネを筆頭にしたフィニッシュ力の高い選手の存在が優勝に大きく貢献したことがうかがえる(ミドルシュートなどによる得点を指す)。
個人レベルで見ても、最高のゴールゲッターは常にゴール期待値よりも多くのゴールを決めている。例えば、モハメド・サラーとプレミアリーグの『ゴールデンブーツ』(得点王)を分け合ったソン・フンミンはたった13.95 xGから23ゴールを決めた。一方、クリスティアーノ・ロナウドは15.66 xGの得点シーンから決めたゴール数は18を数える。
やや意外なのはハリー・ケイン。19.57 xGを下回る17ゴールしか決めていない。しかしこれには、2021-22シーズンの彼がスロースタートを切ったことが影響しているのだろう。クリスマスまでの彼は3.51 xGでたったの2ゴール。つまりクリスマスまでの彼はチャンス自体が少なく、実際に奪ったゴールも少なかったのだ。
もっともケインは、2021-22シーズンを除けば、すべてシーズンでxGを上回ってきた。そのため、昨シーズンの結果はイレギュラーな数値と言うべきだろう。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部