フェデリコ・バルベルデ
レアル・マドリード:2018〜現在
プロフィール
フェデリコ・バルベルデは1998年7月22日生まれ。13歳の時、母国ウルグアイの名門、CAペニャロールの育成部門に加わるとその後、U-15ウルグアイ代表に選出。2017年に韓国で開催されたU-17ワールドカップで素晴らしいパフォーマンスを披露してチームを4位に導き(3位決定戦でイタリアにPK戦負け)、自身は『シルバー・ボール』を手にした。
バルベルデがCAペニャロールでプロとしての第一歩を踏み出したのは2015-16シーズンだった。2015年8月16日に開催された第1節のCAセーロ戦に17歳22日で出場し、55分プレー。その後も出場機会を得た時にはチームに貢献し、『トルネオ・アペルトゥーラ』(前期リーグ)で優勝して初タイトルを獲得した。
バルベルデがヨーロッパへ渡ったのは翌2016年の7月。スペインのレアル・マドリードと契約し、まずは『カスティージャ』(セカンドチーム)の一員となった。慣れない異国にもかかわらず彼は高い順応性を見せ、サンティアゴ・ソラーリ(元アルゼンチン代表)率いるチームでレギュラーの座をすぐに獲得した。
彼のポテンシャルと実力を高く評価したクラブはより高いレベルでプレーさせることを決め、2017-18シーズンは1部所属のデポルティーボ・ラ・コルーニャへ1年間レンタル。9月10日のレアル・ソシエダ戦でデビューし、1部リーグで24試合に出場した。
レアル・マドリードに復帰した彼がトップチームの公式戦にデビューしたのは2018年10月23日。UEFAチャンピオンズリーグのFCヴィクトリア・プルゼニ戦に出場した。2018-19シーズンのバルベルデは合計25試合に出場し、FIFAクラブ・ワールドカップも制している。
ジネディーヌ・ジダン(2019-21シーズンに指揮)の監督復帰以降、主力としての地歩を占め、現在は『白い巨人』に欠かせない選手となっている。
2021-22シーズンから指揮するカルロ・アンチェロッティ監督は言う。
「バルベルデは我々にとって非常に重要な選手。信じられないエネルギーを持っている」
ストロング・ポイント
市場価値7000万ユーロ(約101億円)とも言われるバルベルデの評価を高めている要因の一つは多芸さだ。監督やチームのさまざなまニーズに対応でき、多くのポジションでプレーできる。試合ごとにポジションを変えるだけでなく、試合中にポジションを変えることで監督に多くのオプションを与える。
しかも彼は単なる便利屋ではない。つまり、多くのポジションでプレーできるだけでなく、いろいろなポジションでクオリティーの高いプレーができるのだ。質の高いプレーとは、個人タスクをこなすだけでなく、いずれのポジションでもチームに対して貢献度の高いプレーができるという意味である。
多芸なバルベルデ(15番のValverde)にさらなる付加価値を与えているのが彼のプレーに通底するエネルギッシュさ。オン・ザ・ボール時はもちろん、オフ・ザ・ボール時でも労を厭わないプレーでチームを下支えしている。気がつかない人も多いかもしれないが、解決策やサポートを得ている選手は多い。非常に効果的な献身性は、彼が多くのチームから求められる所以である。
20代前半だが、彼のプレーには無駄がなく、非常に実用的。戦術をしっかりと理解し、チームメイトを助けるプレーができる。
例えば、攻撃的なポジションでもプレーできる彼だが、シングル・ピボットとして起用された時には求められた役割を忠実にこなす。攻守においてチームのバランスを維持し、攻撃局面では少ないタッチ数でボールを動かしてゲームに流動性を与える。
右ウイングで起用された時には異なる表情を見せる。スピードを活かして縦に突破するだけでなく、ワイドレーンからダイアゴナルにドリブルで切り込み、相手の守備を切り裂く。しかも、いろいろなフィニッシュを隠し持っている(下写真)。こぼれ球にいち早く反応して押し込んだり、正確なミドルシュートでネットを揺らしたりもできる。
バルベルデは優れたアスリートでもある。相手を一瞬で置き去りにできるスピードに恵まれ、しかもスプリントを90分間、繰り返せるスタミナも有している。高い戦術理解によって余分なプレーを省けるため、インテンシティーの高いプレーを継続できる。インテリオールとして出場した際には、自陣ゴール前で守備に貢献したかと思えば、次のプレーではアシストしているといった『ボックス・トゥ・ボックス』タイプのプレーを披露する。
彼のストロング・ポイントを支えているのはスペース察知能力の高さかもしれない。スペースの広いや狭いといったサイズに関係なく、そして前後左右など、あらゆる位置のスペースを認知して使える。
広いスペースの使い方のうまさはスルーパスに見られる。相手最終ラインの背後にあるスペースを見逃さずにパスし、味方のランニングを引き出してチャンスを作り出す。
ドリブルでは狭いスペースを巧みに使いこなす。ファーストタッチで『コントロール・オリエンタード』(方向づけコントロール)して相手を簡単に置き去りにしてドリブル開始。並走された状況で前にスペースがあれば、加速して相手の前に入り込んで相手の走路をふさぎ、ボールにタッチされないような状況に追い込んで次のプレーを模索する。
「4-3-3」システムにおける攻撃での役割
これまでバルベルデは、「4-3-3」システムであれば右ウイング、右インテリオール、右サイドバック、そしてシングル・ピボット(アンカー)としてプレーしたことがある。
右ウイングとして出場した時のプレーを紹介しよう。
基本的には攻撃の幅と深さを確保する役割を果たしながらも、相手の左サイドバックを牽制することでサイドバックが自由にプレーできるようにサポート。中間ポジションで相手を揺さぶりながら守備組織の分断を試み、最終的には「1対1」のシチュエーションに持ち込むのを目指す。また、ビルドアップ時には中盤にドロップし、高い位置のパスコースをセンターバックに与えることも忘れない。
GKがロングボールによるダイレクト・プレーを望むケースでは、ハーフスペースに移動。ターゲットになり、受けたボールを上がって来たサイドバックやセンターフォワードへ展開する。
シングル・ピボットのトニ・クロースと下がったインテリオール、ルカ・モドリッチがほぼ同じ高さでポゼッションしたならば、バルベルデ(15番のValverde)は通常、右のハーフスペースに入り、攻撃を前進させるために相手MFの背後にポジショニング。しかし、相手MFの前に入ることもある。後者の狙いは相手を引き付けること。相手に囲まれた状態でボールを受けて逆サイドへ展開、味方(20番のVinicius)が優位な状況でレシーブできるようにする(下写真)。詰まった状況をガラリと一変できる視野の広さとロングパスも魅力の一つだ。
攻撃がファイナルサードに入ると、より中に絞って相手ペナルティーエリア付近でプレーすることが増える。
例えば、右サイドのワイドレーンで味方がボールをキープしていると、バルベルデ(15番のValverde)は一気に加速して保持者を追い越しながらボールを受けて攻撃を前進させる。しかも仕上げも多彩。最深部まで切り込んでマイナスのパスを出したり、受けた瞬間にふわりとしたクロス上げたりもできる(下写真)。
2022-23シーズンは、右サイドバックからショートパスを受けて折り返してゴールを引き出すシーンがたびたび見られている。
「4-3-3」の守備局面でも彼は任務を全う。
シングル・ピボットであればセンターバック、ウイングであればサイドバックの守備負担を軽減するようにポジションをとる。センターバックやサイドバックが担当エリアを飛び出して相手に対応しなければならない時には、生まれたスペースを埋めて守備のバランスを維持する。
「4-4-2」での役割
アンチェロッティ監督は攻撃時に「4-3-3」、守備時には「4-1-4-1」や「4-4-2」に移行という戦術を用いる。両ウイングがインテリオールのラインまで下がって第1守備ラインを形成。相手のシステムが「4-3-3」であったり、対戦相手に高い位置に張り出したりするサイドバックがいる時によく見られる。
ウイングとして出場してドロップして守備に参加するバルベルデに求められるのは味方サイドバックと連係して数的優位にすること、あるいは「2対2」の数的同数にすることだ。
献身性に富んだバルベルデはMFラインに下がるだけではない。豊富な運動量を活かして最終ラインまで下がることも少なくない。彼が加わることで5バックのようになれ、最終ラインは幅を狭めてギャップを埋められ、サイドバックが釣り出されることも避けられる(下写真)。
「4-1-4-1」や「4-4-2」となって守る際、中盤にドロップしたバルベルデはトニ・クロースやルカ・モドリッチをサポートして中央の守備を固まることが主なタスクになる。ただし、サイドバックが相手に寄せるために前に出た場合のバルベルデは、サイドバックが上がったことでセンターバックとの間に生まれたギャップを埋める。
インテリオールとして出場した時のバルベルデは、ビルドアップ阻止を担う。センターバックやピボットを介してボールを運ぼうとする相手に対して猛然とプレスし、中央からの攻め上がりを許さない。ボールを奪えないにしても、ボールを外に押し出し、受け手が限定されるためにサイドでのプレスを担当するウイングやサイドバックは的を絞りやすい。
彼の非常に明確であり、しかもエネルギッシュなプレッシングによるメリットは大きい。相手の攻撃の第一歩をくじき、数的不利な状況から優位な状況へと反転させられるからだ。
スペース察知能力の高さは、守備面でも発揮される。スペースのリスクを瞬時に見極め、相手に使われる前にカバー。危機察知能力の高さが顕著に表れるのがネガティブ・トランジションの時だ。ボールを失った時は守備組織が乱れていることが多いが、バルベルデは最も危険なスペースを埋めることでピンチに陥ることを回避している。
将来性
レアル・マドリードではあまりないことだが、フラットな「4-4-2」システムでプレーしているバルベルデは違和感を覚えているように映る。ボールを失った時に一気に最終ラインまで攻められることが散見されるからだ。
とは言え、類まれなアスリート能力と献身性を持つ彼であれば、多くの問題を解決できるのも事実。「違和感」など取るに足らない問題と言うべきかもしれない。
ヨーロッパに渡って以降、バルベルデはオン・ザ・ボール時に目覚ましい働きを見せるだけでなく、オフ・ザ・ボール時に複雑な問題を解決することで評価を高めてきた。彼が現在のサッカー界において最も優れたMFの一人であることに疑いの余地はなさそうだ。ポール・ポグバ(フランス代表)やスティーブン・ジェラード(元イングランド代表)という偉大な「背番号8」と比較されるのも納得できる。
翻訳:石川桂