フェラン・トーレス
FCバルセロナ, 2021–
2000年2月29日生まれのフェラン・トーレスが『リーガ・エスパニョーラ』に初めて姿を現したのは2017年11月30日。6歳の頃からプレーしてきたバレンシアCFのトップ昇格を果たし、SDエイバル戦に出場した。
バレンシアCFで3シーズン(71試合6得点)を過ごすと、2020-21シーズンよりマンチェスター・シティ(イングランド)に加入。新天地の水にもすぐに慣れ、24試合出場7得点という数字でクラブのタイトル獲得に貢献した。
イングランドで活躍するF・トーレスに目を付けたのがFCバルセロナだ。リオネル・メッシとアントワーヌ・グリエーズマンを移籍で失い、セルヒオ・アグエロが引退したために戦力補強が急務だった。そしてシャビの監督就任後、初の大型契約選手として彼を獲得した。移籍金は総額約80億円とも言われている。
ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・C)は言う
「イングランドでの初シーズンにかかわらず、素晴らしい数字を残した。ウイングとして加入したが、9番(センターフォワード)でもプレーできる。得点の可能性を感じると、ストライカーはボールがどこに来るかが直感的に分かる。彼にはその才能がある」
F・トーレスは右サイド主戦場とし、ウイングでもサイドハーフでもプレーできる。さらに、センターフォワードをサポートする10番としての素養も持つ。彼のポリバレントさを支えているのはボール扱いの巧みさと攻撃面で発揮されるセンスだ。そして何よりも、「トップレベルで成功したい」という情熱が彼の急成長を可能にしている。
184センチという長身選手ではあるが、モビリティーも高い。スペースを常に探し、ワイドなポジションをとってタッチライン際に陣取ることも多いが、中央のスペースを見つけた際には積極的なフリーランニングを見せる。下写真(7番のSterlingと21番のTorres)のように、ボールを保持した味方がルックアップしたら、ダイアゴナル・ランでボールを受けてゴールに迫る。ボールを受けたあと、高い技術を活かして局面を打開できるもの強みだ。
タッチライン際でボールを受けた際の第1選択肢はゴールに向かって仕掛ける斜めのドリブル。その後、味方とのコンビネーション・プレーで崩すか、相手DFにサポートがない状況では抜き去ってゴールをうかがう。ゴールを念頭に置いたプレーが大きな武器と言っていい。
中盤に下がってポゼッションに参加することもある。この時、魅力的に映るのは「プレーを前進させる意識」だ。下写真では、ポストプレーから前向きの選手(16番のRodri)に落とし、前にあるスペースに走り込んでプレーを加速させた(10番のAgueroと21番のTorres)。
ポストプレーだけでなく、ターンできるスペースがあれば、半身になってボールをすかさず前進させる。しかもF・トーレスは相手との接近戦を苦にしない。ボールのキープ力が高いだけでなく、味方を巧みに使って自分を活かせるからだ。仕掛けるのか、ボールを離すのか、に関する判断力が優れているため、相手は守りづらい。
狭いエリアでも積極的にボールを受けられる背景にあるのは、高い技術力だけでなく、周囲をしっかり見られる優れたスキャン能力だ。とりわけ、ライン間やインサイド・チャンネル(サイドと中央の間)を使う能力が優れている。インサイド・チャンネルでは、サイドバックかセンターバックを引き出して味方にスペースを与えたり、どちらもアプローチしてこなければ自分でボールを受けたりする。つまり、周囲をしっかりと見ることと細かなポジション修正によってアタッキング・サードでも比較的自由にプレーできるのだ。
積極的なプレーによって攻撃を加速させる一方、ボールを失うことも確かにある。しかしF・トーレスは守備への切り替えも実に速い。ボール回収のために相手をしっかりと追い、ボールを自分で奪い返したり、味方のボール奪取を支援したりもする。
マンチェスター・Cは定期的にシステムを変更するため、F・トーレスはいろいろなポジションでプレーしてきたが、最も多く起用されたのは「4-3-3」システムの右ウイングだった。ただい、右ウイングに起用されるのがF・トーレスの時とリヤド・マフレズの時では、チームの戦術アプローチはやや異なる。
マフレズが好むのはワイドなポジショニング。タッチライン際でボールを受けて「1対1」を仕掛ける。一方、右サイドバックは内側にポジションをとり、中盤の底に位置するMFとダブル・ピボットを組んだり、インサイド・チャンネルへインナーラップしたりして攻撃に変化を加える。一方、F・トーレスが出場した際にはサイドバックはオーバーラップによって攻撃の幅を広げた(下写真)。
イングランド移籍後のトーレスは多才ぶりに磨きをかけたと言われている。特にパスコースをつくり続けてパスを受けようとする姿勢と狭いエリアでもボールを受けられるレシーブ能力はグアルディオラの目を引いた。
シティはペナルティーエリアの左右にあるスペースを巧みに攻略してゴール前にラストパスを送ることに長けている。しかし同時に、ケビン・デ・ブライネが『偽9番』として出場するときにフィニッシャーを欠いていたのも事実だ。そこで指揮官はF・トーレスの偽9番起用を決断する。F・トーレスは期待に応え、ゴール前で戦術にかなった動きを見せるだけでなく、ルーズボールに鋭く反応するストライカーとしての資質も示した。
FCバルセロナとマンチェスター・Cでは共通点も少なくない。シャビの下でいろいろなポジションでプレーすることになるだろう。そして、監督の要求に応えることによってさらなる可能性を開いていくと考えられている。