ハーフスペースとは?
ハーフスペースとは、サッカーのフィールドにおける特定のエリアを指す言葉である。ピッチをタッチラインと平行に5つのレーンに分けた場合、各レーンには名前がある。
最も外側のレーンはアウタースペースまたはワイドエリアと呼ばれ、通常、タッチラインからペナルティーエリアの縦ラインまでの空間を指す。センターレーンはピッチの中央の空間。通常、センターサークルの幅(18.3m)、あるいはゴールエリアの幅(18.32m)で区分される。
ワイドエリアとセンターレーンの間に存在するのがハーフスペースである。
ピッチを5分割するレーンに番号を振って認識するケースもある。その場合、ワイドエリアは1番と5番、センターレーンは3番、そしてハーフスペースは2番と4番となる。
ファイナルサードに入った攻撃チームは多くの場合、ハーフスペースでボールを受けることやポゼッションすることを試みる。例えば、ペナルティーエリアの角辺りを占めてゴールを狙うのだ。
ハーフスペースの語源
ハーフスペースという概念はドイツで生まれたと考えられている。ドイツ語のハーフを意味するhalbとスペースを意味するraumを合わせたhalbraumが英語に訳されたのだ。なお、ハーフスペースは英語圏内ではインサイド・チャンネルと表現されることもある。
ハーフスペースの利用方法
ファイナルサードにおけるハーフスペース、あるいは最終ライン攻略時のハーフスペースの利用方法を考えよう。
相手が4バックの場合、ハーフスペースは通常、相手のセンターバックとサイドバックの間に存在し、両者の間を広げることがスムーズな利用の前提となる。となれば、サイドバックを引っ張り出すためにウイングやサイドハーフの活躍によって攻撃側は幅を確保しなければならない。同時にFW(あるいはセンターフォワード)が中央で相手センターバックを牽制してハーフスペースを埋められないようにする。そうすることで、MFや10番がレシーブするためのハーフスペースを作り出すのである。
ウイングがカットインして直接的にハーフスペースをアタックするケースもある。ただし、カットインをより効果的にするには、サイドバックやナンバー8(インテリオール)がオーバーラップして幅を広げることが欠かせない。
なお、自陣など、比較的深いエリアでハーフスペースを利用するケースもある。例えば、ビルドアップ時にサイドバックがハーフスペースに入ることでパスコースを作り出し、ボールの回りを良くするのだ。日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、『偽装パス』などと訳せるDisguised passes(ディスガイスト・パスス)もハーフスペースを突く際に有効なツールだ。
ハーフスペースを使う上での偽装パスとは、ワイドエリアにいる味方へ大きく振るようにように見せかけつつ、保持者がボールを引っ掛けるようにして蹴ってハーフスペースにいる味方へボールを送るようなもの。端的に言えば、斜めのパスだと相手に誤解させてポジションを修正させて縦パスを送るプレーだ。偽装パスをうまく使えれば、受け手に時間とスペースを与えられ、ファーストタッチ時のプレッシャーを軽減させられる。
また、相手最終ラインの背後を狙う古典的な攻撃もハーフスペース活用法の一つである。
最終ラインを突く動きによって最終ラインを下げてライン間を広げれば、ハーフスペースでパスを受けるのは容易になる。パスを受けた選手がハーフスペースを直線的に進んで攻略してもいいし、相手を引き寄せることでフリーな選手を能動的に作り出して使ってもいい。
このパターンもハーフスペースの活用術だ。
ハーフスペースの支配者
ダビド・シルバ
現在はレアル・ソシエダに所属するダビド・シルバは、マンチェスター・シティとスペイン代表で活躍し、左サイドのハーフスペースを見事に使いこなした。ライン間でレシーブすると鋭いパスで相手のバックラインを破る能力は非凡の一言。さらに、相手の背後に進出してから放つマイナスのパスは彼がモダン・サッカーにおいて最もクリエイティブなMFの一人であることを示していた。マンチェスター・シティでの初期は、ワイドなポジションが与えられ、そこからハーフスペースに飛び込んでレシーブすることが多かった。一方、ペップ・グアルディオラが監督に就任してからは「4-3-3」システムの8番(左サイド)から前に飛び出すようになった(下写真の21番D Silva)。さらにハーフスペースでボールを受けて深くまでドライブし、クロスやカットバックからチャンスをクリエイトした。
リオネル・メッシ
FCバルセロナでのリオネル・メッシ(現在はパリ・サンジェルマン)は、右サイドからカットインしてドリブルでピッチを縦横無尽に駆け巡り、チームメイトとのコンビネーションからシュート・チャンスを作り出していた。同時に、右サイドのハーフスペースから左方向へダイアゴナルなパスを送り、左サイドからランナーに効果的なパスを供給した。
キャリアを重ねるにつれ、ライン間を移動しながらパスを受けるプレーが増加。とりわけ右サイドのハーフスペースでボールを受ける回数が増えた(下写真の10番メッシ)。そしてメッシは相手センターバックに向かってドリブルで進み、左足でのシュートを相手に警戒させつつ、ラストパスを送ることもあった。
ペップ・グアルディオラ
ペップ・グアルディオラは、ビルドアップ時だけでなく相手陣内に入った時にも5つのレーンに選手をバランス良く配置することを好む(下写真)。幅を確保するためにタッチラインに張り付くのは基本的にはウイングだが、必要であればサイドバックがその役割を担う。ウイングが幅を確保することで、8番(インテリオール)が前に出てハーフスペースに走り込んだり、ライン間のハーフスペースでパスを受けやすくしたりした。またサイドバックが中に入ってハーフスペースを占めると(『インバーテッド・サイドバック』)、ハーフスペースで数的優位を作れ、カウンター・アタックに対するリスクを管理できる。
ハーフスペース利用のメリット
センターレーンを含むピッチの中央は守備が最も警戒するエリア。つまり、ハーフスペースはセンターレーンに次いでゴールに迫るための次善ルートと言える。またハーフスペースの特徴の一つは、センターレーンとワイドエリアからパスを供給できること。得点可能性の最も高いセンターレーンへラストパスを通すにしても、センターレーンの深い位置から縦パスを入れたり、ワイドエリアから長いダイアゴナルパスを入れたりするよりもハーフスペースのほうが簡単だ。
ハーフスペースでボールを受けた選手はいろいろな選択肢を持てる。オーバーラップして来た選手にパスしてクロスを上げさせたり、最終ラインを越えてファーポストに入る選手やセンターレーンを突く選手にラストパスを送れたりする。とりわけ、ハーフスペースから送られるダイアゴナルパスは、ボールと走り込む選手を相手が同時に見ることを非常に難しくする。つまり受け手にとってはマーカーを外しやすいパスとなるため、絶好機を作り出せる可能性が高くなる。
確かに、センターレーンからハーフスペースにダイアゴナルパスを出せるが、受け手はゴールからどうしても遠ざかり、ゴールに向かう角度も狭くなる。やはり、ハーフスペースからラストパスを供給したほうが選択肢は多く、しかもフィニッシャーのゴールに対する角度も広い。
ハーフスペース利用の難点
ハーフスペース利用によって多くのメリットを得られることは明白だ。しかしハーフスペースにボールを運んでからさらに攻撃を進展させるのは簡単ではない。
仮に最終ラインと中盤ラインの間にあるハーフスペースでボールを受けたとしても、時間的、空間的猶予はさほど多くない。間髪なく前後からプレッシャーを受けるだろう。
チームとしてハーフスペースを広げる戦術を練り上げ、実行できたとしても、うまく利用できる選手が欠かせない。まず、周囲の状況を正確に把握でき、速いパスを正確にコントロールできる技術が必要になる。さらに、相手により脅威を与えられるエリアにボールをドライブできるビジョンとボール扱いも求められるだろう。
もう一つの難点はハーフスペースから直接ゴールを陥れるのはかなり難しいこと。カーブをかけてファーサイドのサイドネットを揺らすオプションもあるにはあるが、実行できるのはひと握りのトップ・シューターだけだろう。
ハーフスペースを使う効能は誰もが認めるところだが、ゴールに結びつけるには「もう1つ先の攻撃」まで整備する必要があると言っていい。
ハーフスペース利用の代案
ハーフスペースでプレーできる選手がないチーム、そして「もう1つ先の攻撃」を整備できないチームはハーフスペース攻略に重点を置かないだろう。
そういうチームはよりダイレクトなアタックを志向する。例えば、ボールを奪ってからのカウンター・アタックに磨きをかけたり、サイドからクロスを積極的に放り込んだりするプレーを攻撃の柱に据える。
一方、一部のコーチたちはピッチを5レーンで把握せず、横にディフェンシブサード、ミドルサード、ファイナルサード、縦に6ゾーンに分け、「3✕6」の18エリアにしてサッカーを把握している(両方を使う指導者もいる)。そしてハーフスペース攻略にさほどこだわらない指導者の中には、『ゾーン14』を戦略上の重要ポイントとして考える者がいる。
ハーフスペースをうまく使う選手の分類
・カットイン(利き足とは逆サイドに起用)
モハメド・サラー、ネイマール、クリスティアーノ・ロナウド、リヤド・マフレズ、サディオ・マネ
・偽9番やセンターフォワード
ハリー・ケイン、ロベルト・フィルミーノ、カリム・ベンゼマ
・MF
ケビン・デ・ブルイネ、アンドレス・イニエスタ、ベルナルド・シルバ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロース
・サイドバック
フィリップ・ラーム、ジョアン・カンセロ、カイル・ウォーカー、トレント・アレクサンダー=アーノルド
・センターバック(ドリブルで中盤のハーススペースを利用)
ジョン・ストーンズ、ジョエル・マティプ、マッツ・フンメルス、ハリー・マグワイア、カリドゥ・クリバリ
ハーフスペースの守り方
ハーフスペースの利用阻止を優先した場合、最も効果的なのは3人のセンターバックがいる5バックだ。4バックにおけるサイドバックとセンターバックの間に存在するハーフスペースを消せるからだ。当然、ハーフスペースに相手選手が入ってもマークできる選手がいる。
また、センターバックが多いことは、ライン間で受けようとする選手がいたとしても、前に出てその選手をケアできることを意味する。
この点、センターバックが少ない4バックはコンパクトさが重要になる。誰かが前の選手にアプローチすれば、最終ラインにギャップを生むからだ。
仮に4バックが横に引き伸ばされてハーフスペースが広がった場合、そこを狙う選手をケアするのはMFのタスクとなる。また、最終ラインを破ってハーフスペースをドリブル選手を追ってセンターバックが追走した場合もMFが最終ラインに入らなければならない。つまり、運動量の豊富なMFがいれば、ハーフスペースを突かれた時のリスクを軽減できる。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部