ジェシー・マーシュ
リーズ・ユナイテッド、2021ー22〜現在
「私の指導哲学の根底にあるのは『テンポ良くプレーする』だ」。
相手の処理速度を上回るスピードでゲームを進め、ボールを奪ったらすぐに攻撃に切り替えられるように常に攻撃の準備をしてほしいと考えている。選手たちには、相手を出し抜き、考え抜くことで可能な限り相手の一歩先を行くようになってほしい。
私が選手に求めるのは「完全なコミットメントと信念」。選手たちには、私が求めていることがプレー・スタイルにおいてだけでなく、生き方においても求めているとことだと感じてほしい。
欲しい物があれば、それを取りに行く。何かが起こるのを待つのではなく、アクションを自ら起こす。攻めるのは自分。主体的に行動してほしいのだ。だから私は選手たちに「アグレッシブであることは、受け身であることよりも常にいい」と話している。
このポジティブ、かつ積極的なメンタリティーが私たちの活動において最も重要なことと言っても過言ではない。そう考える私は選手たちに『オールイン』(All in)してほしいと言っている。
この言葉を初めてチームに紹介したとき、私はその意味を理解していたが、選手たちにその定義を聞いた。すると、「常に全力を尽くす」、「与えれば与えるほど、得られるものが大きくなる」という答えが返ってきた。これらの答えは、オールインの意味するものを完璧に表現。一体感を持ち、自分たちの状況を把握することが大切なのだ。
「アーロン・ロングには大きな可能性があると確信していた。そして彼は、アメリカ代表のキャプテンになった」
自分たちで言葉を定義するのは、自分たちの基準を持つということと同義。そして自分たちで作った基準を忠実に守れない人には失望し、裏切られたと思うはず。一方、仲間を失望させたいとは誰も思わないだろう。
私は選手に言う。
「タンクを空にしろ!」
精神的疲労を残り越え、すべてを出し尽くしてほしいからだ。
レッドブル・ザルツブルクには、大きな野心を持った若くて才能のある選手がたくさんいた。彼らはヨーロッパでプレーする機会をすでに得ていたが、そういう選手たちに「チームの成功が個人の成功につながる」と言い聞かせてきた。「力を注げば注ぐほど、見返りが大きくなる」と私は信じているからだ。
私は、選手の育成も本当に、本当に大切なことだと考えている。アーリング・ホーランド(上写真)、ドミニク・ソボシュライ、南野拓実、タイラー・アダムスなどは彼らが若い頃に一緒に働き、現在は一線で活躍している選手たちだ。
そして、私が最も誇りに感じているのがアーロン・ロング(1992年10月12日生まれ)の成長だ。
アメリカの2部リーグでプレーしていた頃の彼は、主に「6番」、つまり守備的MFとしてプレーしていた。彼のプレーをこの目でチェックしてからニューヨーク・レッドブルズの一員に迎えることを決めたが、当時23歳だった彼にこう言った。
「君にはミッドフィルダーではなく、センターバックとしてプレーしてほしい」
同時に私は、セカンドチームでプレーしてチームが掲げる戦術とポジショニングを習得することを提案。「彼が大きな可能性を秘めている」とコーチングスタッフが確信していたからこそできた判断であり、提案だ。
「時には我慢しなければならないこともあるが、きっと我慢が本当の意味で報われる」
ロングは私たちを信頼し、私たちの考えを受け入れ、他チームからの獲得オファーを断ってニューヨーク・レッドブルズのセカンドチームでのプレーを受け入れてくれた。彼は正しいメンタリティーの持ち主だった。
その後、彼は2016年に2部リーグの年間最優秀DFに選ばれ、2018年にはメジャーリーグ・サッカーでも年間最優秀DFに輝いた。
そして2018年にアメリカ代表デビューを果たし、今ではアメリカ代表のキャプテンだ(下写真)。
私たちは、選手の可能性を信じ、選手たちがベストを尽くせるように後押しする。才能ある若い選手にチャンスを与えることを好んでいる。チャンスを与えた時に若い選手が成し遂げることにきっと驚かされる。時には我慢しなければならないこともあるが、きっと我慢が本当の意味で報われる。
私たちは、『成長マインドセット』を持つ人材の育成を心がけている。そうした人材は、失敗した時に改善方法を考えたり、もっとうまくできたのではないかと自分に問いかけたりし、プロセスから何かを学ぼうとするのだ。
意外に思われるかもしれないが、高いレベルでプレーしている選手の大半は、失敗した時に「同じようにやり続ければ成功させられる。その才能が自分にはある」と考える。だが、私たちが求めているのはそういう選手ではない。私たちが求めているのは、向上心に満ちた選手だ。
「優れた人間性の持ち主が優れた選手になる。決してその逆ではない」
私はこの言葉が大好きだ。そして、育成に対する我々のアプローチは、この言葉の正しさを示してきたと感じている。私が関わってきた若く、優秀な選手たちは誰もが、成長することを念頭に置いていた。端的に言えば、彼らは漏れなく「成長したい」と思って練習に取り組み、試合に臨んでいたのだ。
成長マインドセットを持った選手の成功が、チームの成功のカギでもある。そして彼らは私の考えを理解し、私が求めた通りにすべてを捧げてくれる。
トレーニングや試合における1分、いや、1秒に100パーセントのコミットメントができなければ、成功を収めることはできない。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN 編集部