ジュード・ベリンガム
ボルシア・ドルトムント:2020−現在
プロフィール
2003年6月29日生まれのベリンガムがプロデビューしたのは2019年8月9日のEFLカップ(国内のリーグカップ)。8歳から所属するバーミンガム・シティFCの一員として出場し、16歳38日というクラブ最年少出場記録を樹立した。続く8月31日には『チャンピオンシップ』(イングランドの実質2部)のストーク・シティFC戦でプロ初得点を記録し、クラブの最年少得点記録を16際63日に塗り替えた。
隅々のリーグまで目を光らせるスカウトが2部で輝きを放つ宝石を見逃すはずがなかった。争奪戦の末、2020年7月20日、ボルシア・ドルトムントが2300万ユーロ(約33億円)で獲得。2025年までの3年契約を結び(現在は2025年までの契約)、2020年9月19日のボルシアMG戦でデビュー。10月20日には2020-21シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ第1節(ラツィオ戦)でイングランド籍選手の最年少出場を果たした。翌2021年4月14日にはチャンピオンズリーグの準々決勝で初ゴールも記録。17歳289日で決めたこの得点は、同大会におけるドルトムントの史上最年少得点記録である。
イングランド代表としても着実にステップアップ。U-16、U-17、U-21と階段を上がり、2020年11月12日のアイルランド戦で後半途中から出場してイングランド史上3番目となる17歳136日で初キャップ。EURO2020の代表に選ばれ、6月13日のクロアチア戦で途中出場し、EURO史上最年少出場記録を更新した。初得点を記録したのはカタール・ワールドカップ。2022年11月21日にグループステージのイラン戦に先発出場し、先制点をマークしてチームを大勝(◯6-2)に導いた。
元イングランド代表のDFリオ・ファーディナンドは言う。
「イングランド代表として活躍した偉大なミッドフィルダーについて同世代の仲間とよく話しますが、彼の年齢で彼ほど活躍している選手はいません。『彼が優れている』とか『偉大な選手より優れた選手になる』とは言いませんが、見たことのないパフォーマンスを披露しているのは間違いありません。素晴らしい」
戦術分析
ベリンガム(22番のBellingham。下写真)は実にポリバレントなMFだ。多才で予測不可能な選手であり、いかなるポジションで起用されても高い機動力を発揮してチームに貢献。ピボットの位置からサイドにスライドしてMFやサイドバックと連係してタッチライン際を攻略したり、サイドのポジションからライン間に顔を出してパスラインを引いたりする。
中でも外でもプレーできるのは、密集したエリアでのプレーを苦にしないほどの高い技術を備えているからだ。ボールを受ければ、短いパスと相手の守備を切り裂く深いパスを使い分ける能力に長け、ギリギリのところで最適解を見出して状況を切り抜ける(下写真)。またフットワークも軽く、相手マーカーの逆を突くターンやフェイクも得意とする。
高い水準でボールを扱えるベリンガム(22番のBellingham。下写真)は相手のプレッシャーを恐れない。彼が相手を引き付けてくれるため、周囲にいる味方はプレッシャーをあまり受けずにプレーでき、しかも相手を懐まで呼び込んでから鋭いパスを味方に出し、再びレシーブできる(下写真)。彼のこうしたストロング・ポイントは、ローブロックを組む相手を崩すのに大きく役立つ。攻撃的なポジションで起用されれば、さらに長所を活かせる。しかもボール・コントロールでミスする可能性は低くいため、味方は安心して攻撃参加できる。
ドルトムントでもイングランド代表でも、彼が与える「安心感」はチームを好循環に導く。
バーミンガム時代のベリンガムはトリッキーなプレーを好んだり、受け手のことをあまり考慮せずにラストパスを早く出したりすることがあった。その後、驚くべきペースで経験を積んだとは言え、まだ10代。経験不足が原因なのか、あるいは過信のためか、間違った判断を下すこともある。例えば、シンプルなパスでリズムを生み出すべきケースでもドリブルで仕掛け、ボールをロストするシーンが見られる。それでも、ドイツのトップクラブでもまれた結果、よりクレバーな選手となったのは誰もが認めるところだろう。性急なラストパスを送るシーンも減り、シンプルなパスで攻撃を組み立て直す場面も増し、判断の精度が高くなっている。
テクニシャンであるが、彼はディフェンス面でハードワークできるため、守備的なMFとしてもプレーできる。タックルを厭わないのは長所である半面、勢い余ってタックルを敢行して簡単に抜かれるシーンもかつては見られた。しかし最近は、ステイして味方のバックアップも待てている。
ドルトムントのリュシアン・ファーヴル元監督(2018-21シーズン途中まで指揮)やバーミンガムのペップ・クロテート元監督(2019-20シーズンに指揮)もベリンガムの際立ったプロ意識の高さを評価。クロテートは「とても成熟していて、とても集中している」とかつて評価している。
システムとプレー
バーミンガム時代のベリンガムは主に「4-4-2」システムのサイドハーフとして出場。しかし実際にはインサイド・チャンネルに入ってプレーしていることが多かった。
ドルトムント加入当初も攻撃的なポジションやウイングとして起用され、『偽ウイング』のように中に入ったり、中盤から前線に上がったりするプレーを見せていた。しかし徐々にピボットでの起用が増加。ただし、ファーヴル監督時代の彼はさほど攻め上がりを求められていなかったようだが、エディン・テルジッチ監督は攻撃参加を求めている。ピボットながら、2022-23シーズンは公式戦22試合に出場して9得点をマーク(2022年11月12日現在)しているのはその現れと見ていい。攻撃参加のタイミングが飛躍的に良くなっている。
イングランド代表を率いるガレス・サウスゲート監督もベリンガムにペナルティーエリアまでの攻め上がりを求めている。カタール・ワールドカップにおけるチーム、そして彼自身の初ゴールは監督の期待に応えた格好。「4-2-3-1」システムのピボットに起用されたベリンガム(22番のBellingham)は35分、ペナルティーエリアへと向かい、左からのクロスを頭で決めた(◯6-2。下写真)。なお、ベリンガムの得点は、イングランド代表においてマイケル・オーウェンに次ぐ若さで決められたものとなっている。
ドルトムントでもイングランド代表でも日に日に進歩しているのがボールを保持していない時の動きである。守備面でのポジショニングが良くなり、攻撃時におけるオフ・ザ・ボールも向上されたことによってより効果的な位置でボールを受けられるようになっている。
2022年9月17日のシャルケ戦で公式戦100試合出場を達成。ドルトムントでの最年少記録(19歳80日)という新たな栄誉を得たベリンガム(22番のBellingham)は、元々持っていた高いフットボール・インテリジェンスをさらに高めている。彼のおかげで、チームはバランスを崩さずにプレーできる。しかも、味方(23番のCan)と味方(32番のReyna)をつなぐリンクとしても機能。ショートパスを受け、確実に味方にパスして攻撃を前進させる(下写真)。
ポジショニングとフィニッシュのうまさに加え、モビリティーの高さも光る。フィールドのあらゆる場所に出現し、味方にパスコースを常に提供。相手を背負ってパスを受けて味方をサポートしたり、インサイドからウイングのポジションに移動して相手サイドバックのプレスを受けているウイングを中に逃したりもできる。
パサーとしての能力も非凡。素早く効果的にボールを動かせ、スペースを作ってボールを受けようとするチームの狙いを実現する。しかもチャンスと見るや、前に出てボールを受け、一見リスキーに見える縦パスを難なく成功させ、チームにビッグチャンスをもたらす。ラストパスを出せるわずかなチャンスを逃さないこと、そしてそのチャンスを確実に物にするパスセンスの高さも彼の売りだ。
イングランド代表のスターティング・ポジションをがっちりとつかんだ19歳の周囲は非常に騒がしい。
レアル・マドリードやマンチェスター・シティ、さらにはチェルシーやパリ・サンジェルマンといった数々のメガクラブが名乗りを上げているベリンガムの獲得競争は加熱。ただし、ドルトムントでの指揮経験もあるユルゲン・クロップ率いるリバプールが有力候補と見られている。
果たして、8500万ポンド(約141億円)から1億3000万ポンド(約216億円)とも言われる移籍金を支払って宝石を手にするのはどこか? ピッチ上での活躍はもちろん、ピッチ外でもベリンガムの動向が注目される。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部