まずは、メッツァーラのポジションを解説する。
「4-3-3」(「4-1-2-3」)の「2」、「4-1-4-1」であれば中盤の「4」の中央に位置する2人、「3-1-4-2」でも「4」の中央に位置する2人を指す(スペイン・サッカー界で言うところのインテリオールに近い)。このポジションでプレーする選手には通常、創造力と機動力が求められる。もちろん、攻め上がって攻撃をサポートすることが主な任務になるが、守備を疎かにするような選手は出番を失いやすい。
一方、英語圏内では、メッツァーラは『ボックス・トゥ・ボックス』(攻守に幅広く動き、豊富な運動量を誇る選手)と解釈されることも多い。
1930年代に勢力を拡大した「WMシステム」において、Wの底部を成す2人をイタリアではメッツァーラと呼んだ。なお、「MEZZALA」とは、中盤を意味する「MEZZO」とウイングを意味する「ALA」が組み合わせたものであり、「中盤のウイング」となる(複数形は『メッツァーレ』)。こう呼ばれるのは、当時のメッツァーラが「ワイドに開いてプレーすることが多かったから」と言われている。現代でもタッチライン際に出てプレーすることはあるが、むしろ、サイドと中央の間にあるハーフスペースを主戦場にしてウイングやFWと連係することが多い。もちろん、FWを追い越してゴールを狙うのも大切な役目になる。
メッツァーラは、鋭いスプリントとパスを操ってチームを前進させることが期待されている。中でも正確な縦パスをハーフスペースに突き刺して決定機を演出したり、前線の選手を追い越す動きでゴールに迫ったりして攻撃をリードする。また、前線のサイドに広がるエリアに移って幅を確保したり、タッチライン際を攻略したりもする(下写真:22番のDi Maria)。
メッツァーラとして高い評価を得るには、秀でたテクニックと有利なポジショニングを素早く見抜ける判断力が必須。また、相手が警戒を強めるエリアでプレーすることが多くなるため、密集地帯の突破を可能にするコンビネーション・プレーの使い手であったほうがいい。
トップレベルに到達するにはフィジカル面の要求も多くなる。中盤から前線でプレーする以上、一瞬で相手を置き去りにできたり、狭いエリアで方向転換できたりする必要がある。つまり高いアジリティー能力はアドバンテージになる。さらに、プレミアリーグのようにアップテンポのリーグでは、ダイナミックなフリーランニングでカウンター・アタックの先鋒になることもある。この点はサイドバックやウイングに共通するものだ。
また、サイドでのプレーを戦術的に織り込まれたメッツァーラであれば、縦への突破力、あるいは正確なクロスの配給力が必要となる。この点は選手の能力とチーム戦術の兼ね合いになる。
「4-1-4-1」の場合、センターフォワードと2人のメッツァーラというトリオで、ビルドアップを開始したセンターバックにプレッシャーを与えてサイドに追い込む。仮に、メッツァーラのラインを越えるようなボールを相手が蹴り込んだ場合、プレスバックして相手を挟み込まなければならない。「3-1-4-2」や「4-2-2-2」であるならば、2トップとの4人で守備ブロックを築き、さらには中盤の底にいるMFと連係して中央突破を阻む。
「4-3-3」(「4-1-2-3」)の場合、2つの守り方が考えられる。前線の3人がワイドに開く場合、メッツァーラは中央の守備を固める。一方、前線の3人が幅を狭めて中央を守る場合、メッツァーラはサイドに出たボールに対処しなければならない。フィジカル的に優れた選手がメッツァーラを務める際に多く見られる。
守備においてもゲーム・インテリジェンスを求められるのがメッツァーラだ。無駄走りを極力避けるためにも、相手の展開を読んで的確なタイミングでプレスをかけることが必要になる。
デ・ブライネ(上写真:17番のDe Bruyne)は、ジョゼップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティの中心選手であり、驚くべき存在感を発揮するメッツァーラ(「4-3-3」で主に右のメッツァーラとしてプレー)。彼の武器はパスだけではない。トップの後ろやサイドバックの前でボールを回収すると、強烈なミドルシュートでゴールに襲い掛かる。機動力にも恵まれている彼のプレー範囲は広い。サイドに移れば、正確なクロスでゴールを引き出す。
献身的なプレーが目を引くディ・マリア。レアル・マドリード時代(2010-14シーズン)には左サイドに展開し、左ウイングの位置から中に入ったクリスティアーノ・ロナウドと見事なコンビネーションを披露した。2015-16シーズンにパリ・サンジェルマンに戦いの場を移しても輝かしい足跡を残す。加入1年にはリーグ新記録となる18アシストを記録してリーグ優勝に貢献した。
1億円ユーロ(約130円)の値札がついているミリンコヴィッチ=サヴィッチ。192センチと大柄だが、技術も高く、機動力も有する。マウリツィオ・サッリ監督の導入した「4-3-3」でメッツァーラとして活躍し、得意のミドルシュートをねじ込むだけでなく、ハーフスペースでパスを受けてゴールをうかがう(下写真:17番のMilinkovic-Savic)。また、体躯を活かしてターゲットとなり、攻撃を前進させる上で一役果たす。
●ポール・ポグバ(ユベントス:アントニオ・コンテ監督)
●アンドレス・イニエスタ(FCバルセロナ:ジョゼップ・グアルディオラ監督とルイス・エンリケ監督)
●ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード:ジネディーヌ・ジダン監督)
●ベルナウド・シルバ(マンチェスター・シティペップ:ジョゼップ・グアルディオラ監督)
●ユリアン・ドラクスラー(パリ・サンジェルマン:ウナイ・エメリ監督とトーマス・トゥヘル監督)
●コランタン・トリッソ(リヨン:ブルーノ・ジェネシオ監督)。
メッツァーラは多くのメリットを攻撃面でもたらす。スルーパスを受けたり出したりするだけなく、センターバックとサイドバックの間を突くことも可能。しかも、少しポジションを上げるだけで前線をオーバーロード状態にできる。
メッツァーラがサイドのレーンに入ってオーバーラップを繰り出した場合、ウイングのカットインを促したり、サイドバックのインナーラップを引き出したりするスペースを生み出せる。こうした動きは攻撃のバリエーションを増やす。
また、カウンター・アタックでも効果を期待できる。センターフォワードやウイングをメッツァーラがサポートできれば、厚みのあるカウンター・アタックを繰り出せるからだ。
メッツァーラの選手が戦況をしっかり読んだ上で動けるならば、攻撃の自由度は上がり、相手は予想しづらくなる。ボールを保持していても、保持していなくても、各選手はバランスを崩さずに意外性のあるプレーが可能になる。
メッツァーラの読みが甘く、攻撃に比重を置きすぎると、中盤とフロントラインの間にぽっかりとスペースが空き、チームとしての連動性が低下。それを避けるため、トレーニングを通じてポジション・ボランス維持を徹底しなければならない。あるいは、メッツァーラがサイドに出た時に中央の選手がボールを失うと、中央の守備が手薄なためにカウンター・プレスを仕掛けにくい。このケースでの対策が必要となる。
多くの場合、イングランド的なボックス・トゥ・ボックスのMFよりもメッツァーラの守備力は低い。守備時のリスクを考慮した上で選手を配置しなければ、守備負担の大きくなる選手が現れ、守備が破綻して思わぬ失点を喫するリスクをはらむ。