ナウエル・モリーナ
アトレティコ・マドリード:2022〜現在
プロフィール
アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督は、2022年1月にキーラン・トリッピアー(現在はニューカッスル)を失ってから、右サイドバック獲得をクラブに要求。リストの最上位にいたのは指揮官と同郷のナウエル・モリーナだった。そして2022年7月28日、移籍金2000万ユーロ(約26億6000万円)でウディネーゼ・カルチョ(イタリア)からの獲得に成功した。
カタール・ワールドカップで世界チャンピオンに輝いたモリーナは1998年4月6日、アルゼンチン生まれ。ボカ・ジュニアーズの育成部門で技を磨いてトップに昇格し、2016年2月18日に『CAサンマルティン』との試合でデビュー。しかし、その後は出番を思うように得られず、2018年1月から『CSデフェンサ・イ・フスティシア』へ貸し出され、さらに『CAロサリオ・セントラル』へのレンタルも経験した。
CAロサリオ・セントラルでのプレーぶりに目をつけたのがウディネーゼ。2020年9月15日、フリー・トランスファーでの獲得に成功した(5年契約)。モリーナはイタリアで輝きを放ち、2シーズンで68試合に出場して10得点をマークし、最も優れたサイドアタッカーと評価する声も多く聞かれた。
アルゼンチン代表
イタリアでの成長を買われ、2021年6月3日にアルゼンチン代表として初めてプレーすると、すぐさま定位置を獲得。カタール・ワールドカップでも右サイドバックとして6試合にスタメン出場を果たし(グループステージのメキシコ戦は途中出場)、オランダとの準々決勝では代表での初ゴールも記録した。
戦術的な分析
モリーナは人並み外れたアタッキング・センスを有した右サイドバックであり、攻撃時には右ウイングのように振る舞える。サイドバックとして、そしてウイングとして監督から求められるタスクをスムーズこなせる技術水準と戦術理解度を誇る。
特に、彼の攻撃特性はポジティブ・トランジション時に発揮される。相手の守備陣形が整う前に空いたスペースに滑り込み、抜け目なく攻略。しかも切り替え時の彼は信じられないほど広いエリアに顔を出せるのだ。アタッキングサードでは、単独の鋭い動きでチャンスを作ったかと思えば、味方との素晴らしいコンビネーションで攻撃を構築。右サイドバックという範疇には納まり切らないほどの攻撃性能を備えている。
抜群の攻撃力が高く評価される反面、守備面においては守備技術を向上すべきと指摘する向きもある。たびたび改善点として挙げられるのがタックルだ。
攻撃的なメンタルを持つモリーナ(4番のMolina)は時として焦ってタックルを繰り出して傷口を広げることがある(下写真)。結果、最終ラインを危機的状況に晒すことになる。
また、相手がタッチライン際を攻め上がって来た時のマネジメントにも改善の余地がある。ボール保持者に対する寄せが甘いシーンが散見され、自由を与えがちなのだ。ボール保持者は縦突破してクロスを上げる、あるいはカットインしてシュートを打つという2つの選択肢を持てる。逆に言えば、モリーナは相手のプレーを制限できていないことになる。
ちょっとした距離感に関する課題ではあるが、トップレベルでは致命傷になりかねない。相手との距離を適切にとれるようになり、相手とボールの間に体を滑り込ませてボールを奪えるようになるのが理想だ。
守備の課題を考慮すれば、モリーナは完成されたサイドバックとは言えない。しかし、ペナルティーエリア付近で不用意なファウルをしないのは長所とされている。
今後、わずかな綻びさえも守備に許さないシメオネ監督は、モリーナのウイーク・ポイントを一つひとつ修正していくだろう。もっとも、ファウル数の少ないことはローブロックを好むシメオネ監督の要求にも合致している。
高いモビリティー
モリーナ自身は、攻撃的な持ち味を存分に発揮できるため、ウイングバックでのプレーに自信を持っているように見える。ウディネーゼ時代に右ウイングバックとしてプレーした時のデータをひも解くと、70%以上のパス効率という見事な値が目につく。ウディネーゼで見せていたように、3バックを選択したチームではウイングバックとして高いエリアにポジショニングして攻撃面で貢献できる。
一方、4バックを採用したチームでは前線や中盤ではなくモリーナ(16番のMolina)は右サイドバックとして起用されてきた。それでも攻撃力を発揮。ピボットがビルドアップのために最終ラインに入ったりしたケースでは幅を確保しつつ、深みを作る。時には相手ディフェンスラインの背後でレシーバーになる時さえある(下写真)。モビリティーの高さも売りの一つだ。
攻撃をクリエイトする面でもモリーナは才能を発揮する。味方のウイングが相手サイドバックを引きつけているのを見逃さず、彼はインサイド・チャンネルに入り込んで中へパス。走り込んだ味方選手がフィニッシュに持ち込みやすい適切なスルーパスを操れる彼にとってはインサイド・チャンネルも活躍の場所だ。相手にすれば、中距離のラストパスは予見しづらいだけにチャンスになる可能性が高まる。
モリーナが右足のインサイドやインステップから放つシュートは力強い。右サイドからゴール正面に入った時など、得意なエリアに入った時の彼は一気に危険な存在となる(下写真)。
ただし、彼は頻繁にシュートを打つ類の選手ではない。特にタッチライン寄りのエリアでプレーしている時には素晴らしく効果的なクロスでゴールをお膳立て。あるいは、巧みなドリブルで進行方向を変えながらパスコースを開き、中距離にいる味方への鋭いパスを通す。
ドリブルでボールを運ぶモリーナの姿を見れば、ドリブルの名手であることに誰もが気がつくだろう。ボール扱いが巧みなだけでなく、高速で進め、しかもフェイントも織り込めるのだから相手にすれば厄介。多くの試合でドリブル成功率50%を記録し、時には61%という成功率をたたき出すことがあるのも納得だ。
ポリバレントなプレーヤー
前述しているが、モリーナは多芸な選手である。攻守両面でチームに貢献でき、右サイドバックとしても右ウイングバックとしても遜色なくプレーできる。ワイドなレーンの使い方に長けた選手と言える。
「4-3-3」や「4-2-3-1」では多くの場合、彼は右サイドバックに配置される。右サイドバックの場合、ボール扱いやパス能力に優れたモリーナはビルドアップで効果的な働きを披露。後方から自分でボールをドライブできるだけでなく、第1プレッシングラインを越えた位置でボールを受け、攻撃をさらに前進させられる。
彼の前に位置する右ウイングや右サイドハーフが中に入れば、モリーナ(16番のMolina)の視界は一気に開ける。高いモビリティーを活かして右サイドのハイウェーを攻略。アタッキングサードに入ってクロスによってゴールを導き出すこともできるし、内側のエリアに構える選手と連係してチャンスを構築できる(下写真)。味方とのワンツーも得意のパターンだ。
ウディネーゼ時代の彼は「3-5-2」の右ウイングバックに入っていた。このフォーメーションではオリジナル・ポジションが高くなるため、ビルアップでの貢献度は低くなる。しかし、ミドルサードからアタッキングサードにおいて攻撃力を発揮できるようになり、ショートカウンターでの動きが光る。
当時のスタッツを見ると1試合平均30本近いパスを試み、成功率は70%以上。右サイドのキーマンとして働いていたことが分かる。
こうしてみると、多くの監督がモリーナを右サイドのメインキャストに推すのが分かる。ミスが少なく、計算しやすい選手というのも指揮官には心強い。
代表での攻撃オプション
モリーナはアルゼンチン代表のリオネル・スカローニ監督から全幅の信頼を得ている。「4-3-3」であっても「4-2-3-1」であっても右サイドバックのファーストチョイスとなっており、持ち前の攻撃力をチームに還元している。
カタール・ワールドカップを見ても分かるように、アルゼンチン代表における重要なアタッキング・パターンの一つがサイドから仕掛けるダイナミックなもの。この点、モリーナの果たす役割は非常に大きい。グループステージの最終戦(対ポーランド)では思い切りのいいオーバーラップからアレクシス・マック・アリスターの先制ゴールをアシスト。チームに勢いをもたらした。
得点に絡まない時でも彼は戦況に影響を与えている。「1対1」をいとも簡単に攻略してしまうモリーナに対して相手は警戒心を強め、「2対1」で対応できるように備える。つまり、ピッチ上にいるだけで相手の守備バランスを崩せるのがモリーナなのだ。
モリーナはアルゼンチン代表のリオネル・スカローニ監督から全幅の信頼を得ている。「4-3-3」であっても「4-2-3-1」であっても右サイドバックのファーストチョイスとなっており、持ち前の攻撃力をチームに還元している。
カタール・ワールドカップを見ても分かるように、アルゼンチン代表における重要なアタッキング・パターンの一つがサイドから仕掛けるダイナミックなもの。この点、モリーナの果たす役割は非常に大きい。グループステージの最終戦(対ポーランド)では思い切りのいいオーバーラップからアレクシス・マック・アリスターの先制ゴールをアシスト。チームに勢いをもたらした。
得点に絡まない時でも彼は戦況に影響を与えている。「1対1」をいとも簡単に攻略してしまうモリーナに対して相手は警戒心を強め、「2対1」で対応できるように備える。つまり、ピッチ上にいるだけで相手の守備バランスを崩せるのがモリーナなのだ。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部