ニコ・ウィリアムズ
アスレチック・ビルバオ:2018~現在
兄弟が同じチームに所属し、同時にトップチームでプレーする例はさほど多くない。アスレチック・ビルバオのアカデミー出身の兄のイニャキ・ウィリアムズ(1994年6月15日生まれ)と弟のニコ(2002年7月12日生まれ)はそれを成し遂げた。
兄よりも弟が脚光を浴びることは多くないと言われているが、22歳でスペイン代表に選ばれた兄よりも早く代表に選ばれるなど、ニコは驚くべき成長を見せている。
ニコがビルバオのトップデビューを果たしたのは2021年4月28日(バリャドリード戦)。イニャキも出場していたため、兄弟揃い踏みとなった。その後、ニコは周囲を納得させる結果を残し、20220年1月6日にはトップチームでの初得点を国王カップ3回戦で記録。2022年9月11日にはリーグ戦で初得点をマークした。彼のプレーと長足の成長を目にしたスペイン代表のルイス・エンリケ監督は、9月25日のスイス戦(UEFAネーションズリーグ)において途中出場させて彼に代表キャップを与えた。続く28日のポルトガル戦でも途中出場したニコは決勝ゴールをもたらす初アシストを記録している。
ルイス・エンリケ監督のニコ評を紹介しよう。
「ニコは前へ出るスピードが素晴らしく、非常に興味深いワイドプレーヤーだ」
一方、ビルバオのエルネスト・バルベルデ監督は言う。
「20歳と若い彼は、まだ進化の過程にある。彼には改善しなければならない点があるし、学ばなければいけないこともある。しかし、彼は自分自身を理解しているため、心配ないだろう」
テクニカル分析
ニコ・ウィリアムズ(Nico Williams)は左右のウイング(かMF)としてプレーでき、タッチライン際だけでなくインサイド・チャンネル(ハーフスペース) でもプレー可能(下写真)。チームが採用するシステムやボールの運び方というものから影響を受ける部分もあるが、持って生まれた資質から判断すれば、現時点での彼の適正ポジションは右サイドと言うべきだろう。
直接対峙するマッチアップする相手選手のタイプによっては自らポジションを変更することもあるようだが、相手選手のタイプにかかわらず、試合終盤に入って相手が疲れ始めると彼は輝きを増す。残り時間数分になってから彼の圧倒的なスピードに対応するのは簡単な作業ではないからだ。
ニコのストロング・ポイントはスピード、パワー、爆発力。それらを発揮するタイミングを見誤ることが少ないのはクレバーさの現れだろう。ワイドエリア、あるいはインサイド・チャンネルからスタートしても相手を攻略できる。しかも圧倒的なスピードを持つからこそ、多少、不利な状況でもあっても劣勢を覆せる。スピードに乗れるような状況をニコに与えてしまえば、大した工夫もしない彼に置き去りにされるだろう。
また、ワイドなポジションに入るタイミングをよく心得ていることも彼の長所だ。マークする相手よりも優位に立てるポジションに入れ、相手の守備幅を広げることで味方にスペースを与えて優位に立つことをアシストする。
戦術的インテリジェンス
若干二十歳のニコはまだ成長過程にあるが、攻撃局面や攻守の切り替えにおいて非凡な戦術理解度の高さを見せている。自分のため、あるいはチームメイトのために実行すべきプレーを正確に理解し、次の展開を読んだ上で正しい判断を下せるのだ。非常に優れたインテリジェンスを有している(下写真)。
スピードをセールス・ポイントにするニコだが、ゴールに近づくほどに力を発揮。しかもゴールから離れていても驚異的なスプリントで空間と時間を一瞬で無として相手に脅威を与えられる。
進化し続けるニコはボールがない時のプレーでも長足の進歩を見せる。多くの専門家が口を揃えて良くなったと言うのが「相手との距離」。少し前までの彼は相手に近すぎる状況でボールを受けていた。結果、間のスペースを自ら閉じてしまい、スピードに乗り切れないだけでなく、プレーの選択肢を狭めていた。しかし最近は常に周囲を確認し、適切な距離を保つようになっている。また、「相手が動くに動けない」ようなポジショニングも身につけ、自分だけでなくチームメイトにスペースと時間を与えられるようにもなっている。
周囲に目を配るようになったことで彼のポジショニングは非常に効果的なものとなった。インサイド・チャンネルや中央のレーンに入ることで積極的にゲームに絡んだり、サイドバックがオーバーラップするスペースを空けたりしてチームに貢献。また、中に入ってプレーするようになったことは彼が直接、得点に絡むことを促した。
アタッキングサードでの存在感も日毎に増している。中央の密集地帯でも落ち着いて状況を判断し、数的優位や位置的優位を見逃さずにワンツーなどのコンビネーションプレーでルートをこじ開けられるようになっている。
「ゴールを量産」という段階には至っていないが、近い将来、ゴールランキングに名を連ねる可能性もある。
最近、最も目を引くのが効果的なカットイン(下写真)。相手に動きを察知しづらくなったこともあり、ワイドにいる時のニコ(11番の Nico Williams)は余裕を持ってプレーできている。縦のスペースがさほどないと見るや、中に入ってクロスを上げたり、ファーサイドを狙うようなシュートを打って味方が押し込めたりする状況を作り上げる。
多彩なテクニック
疲労が蓄積していそうな時間帯でも、ニコがフィジカルとテクニックのアンバランスをうかがわせる局面はほとんどない。デュエルで見せるシザース・フェイントに限らず、彼はボール扱いの水準が非常に高い。また、走りながらもいろいろなテクニックを発揮できることからコーディネーション能力の優秀さも感じられる。また、左右の足でボールを扱えるため、苦もなく左右のウイングをこなす。このポリバレント性はDFとのミスマッチを引き起こす上で役立っている。
ポジティブ・トランジション で彼が相手に与える脅威も見逃せない。味方がボールを奪った瞬間、彼はスプリントを開始。相手の守備陣形が整う前に背後を突き、ボールを受けてゴールを迫る算段だ。仮に彼がボールを受けられなくても、彼が背後を狙うことで相手の最終ラインはスペースを埋めるために下がる。すると相手のライン間隔が広がってスペースが生まれ、味方はボールを動かしやすくなる。
自チームが激しいハイプレッシャーを受けている時、ニコ (11番の Nico Williams) は前線に留まって相手のセンターバックとサイドバックのギャップにダイアゴナルランを仕掛けることを狙っている(上写真)。自陣で窮屈なプレーを強いられている味方にすれば、彼の存在は心強い。
なぜなら、ややアバウトなボールを後方から前線に蹴り出しても、彼ならレシーブしてくれるからだ。窮余の策とは言え、ダイレクト・プレーのターゲットがいれば、相手も警戒せざるを得ない。相手が後ろ重心に少しでもなれば、プレッシャーの強度を下げられる。
守備面での貢献度も高い。しっかり帰陣してサイドバックをサポートし、プレスバックも厭わない。
前からの守備でも彼の存在は目を引く。しっかり相手に寄せてボールを外へと誘導し、次は方向を変えて外のレシーバーに対してプレス。タッチライン際へと追い込む。相手がミスを犯せばボールを奪還し、ボールを奪えなければ選択肢を徐々に奪って仲間と連係してボールを奪うように仕向ける。
改善すべき点
所属するビルバオやスペイン代表で結果を残し、有望な選手であるのは明白だが、ゲームの局面によっては改善すべき点もある。
最も大きな課題と言えば、「待たれた時の対応」。ドリブルしている時でもチームがポゼッションしている時でも、対峙する相手がステイを選択すると、判断がブレるケースが散見される。個人の能力を信じたい気持ちは分かるが、タッチ数が多くなって時間とスペースを自ら削ってボールを失うのだ。また、密集地帯に無理やりドリブルで入ってボールをロストするケースもある。焦れずにボールを動かしたり、味方をうまく使ったりするために一層判断力に磨きをかけるべきだろう。
精神的な若さが原因と思われるが、タイトなフィジカル・コンタクトを挑む相手を苦手としているフシがある。コンタクトを避けているようにも見えるのだ。そのため経験豊富なDFであれば、彼が足を止めてボールを受ける瞬間に狙いを定めて強烈なタックルを仕掛ける。すると彼らしくない頻度でボールをロスト。ボールを守ることを優先した体の使い方などを向上しつつ、ボールを受ける位置やタイミングなどを含んだ細部の駆け引きを身につけていく必要がありそうだ。
また、コンタクトを避けることはルーズ・ボールの奪い合いや空中戦での弱さも引き起こしている。
課題を列挙したが、彼の将来が明るいことは誰もが認めることろ。課題を克服していく過程はつまり、世界有数の選手になるための階段を上っていることを意味する。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部