「背番号8」とは?
そもそも8番と呼ばれる選手(ポジション)は、攻撃と守備の両面でチームに貢献できるセントラル・ミッドフィルダーを指していた。イングランドでは『ボックス・トゥ・ボックス』(ペナルティーエリアからペナルティーエリアまでカバーする選手という意味)と形容されることも少なくない。
もっとも、現代の8番はインサイド・チャンネル(ハーフスペース)で味方をサポートする役割も担うようになっている。その背景には、ボールをポゼッションしてゲームをコントロールするチームが増え、『エンド・ツー・エンド』(互いに蹴り合い、ボールが言ったり来たりする意味)のサッカーが減少したことがあると言われている。
確かに、サッカーの変化と共に8番の役割は変化してきた。しかし依然として、エネルギッシュであること、攻撃と守備の両方で貢献できることが要求されるポジション、あるいはプレー・スタイルと言えるかもしれない。
ちなみに背番号別のプレー・スタイルは、背番号6が守備的、背番号10は攻撃的、背番号8番は両方というイメージ。
「8番」の由来
今回の原稿で取り上げている選手が『ナンバー・エイト』と呼ばれるようになったのはかつて、背番号8をつけていたため。「2-3-5」システム (上図)ではファイブ・フロントの『インサイド・ライト』に背番号8が与えられていた。
その後、システムが進化して4バックが一般的になると、8番のポジションも変化。中盤がフラットな「4-4-2」システムでは2人いるボランチの一方、「4-3-3」システムではシングル・ボランチの前に位置する2人のMF(『中盤の2トップ』)の一方が8番のユニフォームを身につけた。ダイヤモンド型の中盤であれば、サイドに入る。
攻撃時の「背番号8」
モダン・サッカーにおける8番の主戦場は中盤の中央。そのため、攻撃と守備、右サイドと左サイドをつなぐことが求められる。リンクマンとしてのプレーするのだ。
ダブル・ボランチの一角を占める8番は、中盤から飛び出して前線の人数を増やす役割を担うケースが多い。狙うは相手センターバック同士の間。また、8番のパートナーを務める選手は深い位置にとどまり、4バックの前の盾となる。
「4-3-3」などにおいて中盤が逆三角形になる3人であれば、8番は中盤の2トップ。彼らは左右のインサイド・チャンネルにポジショニングすることが多く、上の写真ように相手のサイドバックとセンターバックの間に走り込んでチャンスを作り出す。かつての5トップを想起させるようなプレーが見られるのだ。
エネルギッシュな8番はピッチを動き回り、ボールを積極的に受けてプレーを組み立てる。タイプにもよるが、ひときわ輝くのが豊富な運動量を活かせるトランジション時であり、リンクマンらしさを発揮するサイドチェンジだ(上写真:8番Gerrard)。さらに、アーリークロスを上げて一気にチャンスを引き寄せたり、ミドルシュートからゴールを脅かしたりもする。ダブル・ボランチの一角に入った時には自陣の深いエリアでボールを受けて展開することも少なくないが、中盤の2トップに入った時には深いエリアでの滞在時間は短い。むしろ、高いエリアでプレーして攻撃面で貢献することになる。例えば、FWと連係してゴールを狙う(下写真。8番Iniestaと10番のMessi)。
ダイヤモンド型の中盤(「4-4-2」)ではサイドハーフに入り、サイドエリアをアップ&ダウンして最終ラインと前線を結ぶ。そしてフロントラインを追い越してクロスを上げたり、カットインしてゴール前に攻め込んだりもする。役割を変えるのは監督の采配だろう。「右利きの選手を右サイド」と「右利きの選手を左サイド」という起用法の違いは、おのずと異なるプレーを引き出す。
守備時の「背番号8番」
システムに関係なく、アウト・オブ・ポゼッション時の8番はフリーランを繰り出す相手ランナーをフォローしつつ、ボール保持者と対峙した時にはボール奪取の役割を担う。飽くなき闘志や高い持久力、もちろん優れたボール回収能力が求められる。
ダブル・ボランチを組んでいれば、最終ライン前に構える最後の砦になるため、スピードやデュエルの強さ、そして相手FWへのパスコースを消し続けられるクレバーなポジショニングも必要となる。ペアで考えるならば、高い連動性が不可欠だ。
サイドに入ることになるダイヤモンド型の場合、積極的に前に飛び出して守るケースが増える。なぜなら、システムの関係上、サイドでファースト・ディフェンダーになることが増えるからだ。しかも頻繁に「1対1」を迎えるため、デュエルで後手を踏まないためのアジリティーを有し、ボールをアウトするだけでなく、しっかり回収してカウンター・アタックを繰り出せるのが理想だ。
一方、8番が積極的に前に出るため、シングル・ピボットは最終ラインのスクリーンとして働きながら8番をサポートしなければならない。
次にプレス方法に分けて必要な能力を考えていこう。
■ローブロック
低いエリアに守備ブロックを築くため、8番は陣形をコンパクトに保ち、パスで中央を崩そうとする相手の狙いを挫くという重要な役割を担う。そのためには、コンパクトなユニットを維持して左右にスライドして相手を牽制しつつ、相手がミスした時には一気にブレークしてボールを狩る洞察力を身につけなければならない。
■カウンター・プレス
ボールを失った瞬間からプレッシャーを与える戦術では、相手選手を直接マークするケースと相手をケアしながらスペースもケアするケースがある(中間ポジション)。
1トップや3トップを採用していると、前線中央での人数が不足してプレスがかかりづらい。その欠点を補うために、前方へジャンプし、前線のプレスに加担することを8番に求める監督もいる。
現代サッカーにおける優れた「8番」
トニ・クロース(レアル・マドリード)
2014-15シーズン以降、レアル・マドリード(「4ー3ー3」システム)の背番号8を背負って中盤を支え続けているのがトニ・クロース(下写真)。左インテリオールに入るクロース(8番のKroos)は攻撃時、左インサイド・チャンネルを下がり、シングル・ピボットよりも低いポジションにしばしば入る。そのポジションでボールを受け、鋭いパスや正確な縦パスで攻撃を構築すると同時に、左サイドバック(23番のMendy)のオーバーラップを支援。左サイドバックが高い位置に入ることで、かつてはクリスティアーノ・ロナウド、現在はヴィニシウス・ジュニオール(20番のVinicious)がカットインしてゴールに迫りやすくしているのだ。
ルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)
2018年に『バロンドール』を受賞したモドリッチはベストなナンバー・エイトの一人だろう。勘所を得たドリブル、的確な長短のパス、そしてパスを引き出すフリーランで攻撃をけん引いたかと思えば、労を惜しまないハードワークで守備を引き締める(下写真)。彼のマルチぶりが垣間見られるのが2010-11シーズンのスタッツだろう。トッテナムの一員としてプレーしていた当時、リーグのトップ3以内に入るパス成功数とインターセプト数を記録したのだ。
2012-13シーズンから所属するレアル・マドリードでもチームの肺として欠かせない存在感を放っている。リーグ優勝3回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝5回は彼がいてこその結果と言っていいだろう(10番のModric)。
ジョーダン・ヘンダーソン(リバプールFC)
ヘンダーソンは文字通りのボックス・トゥ・ボックスのMFあり、優れた技術力と驚くべき仕事量をこなす(下写真)。彼に対抗できる相手は多くない。
攻撃をサポートするためにゴールに向かうランニングも見せるが、超攻撃的な右サイドバック、トレント・アレクサンダー=アーノルドが攻め上がってできたスペースも抜かりなく埋める。また、右ウイングのモハメド・サラーが中へ移動した際には入れ替わるようにサイドに出る。さらに、豊富な走力を活かしてサイドチェンジのターゲットにもなる(14番の Henderson)。外から相手の左サイドバックと左センターバックのギャップを目掛けて走り込んでチャンスを作る。
守備時の貢献も大きい。積極的にカウンター・プレスを仕掛けたり、相手のフリーランニングも見逃したりせずに追走できる。
「背番号8」のメリット
無尽蔵の運動量を誇るボックス・トゥ・ボックス型の選手がいると、推進力を得たチームは前進しやすい。しかも、後方から加勢することで最終ラインを押し込める。しかも相手に守備陣に対するオーバーロードは精神的なストレスも与えられる。同時に、相手の主事陣形を崩すことで、味方が狙えるギャップも生み出せる。
一方、8番がタイミングをずらして攻め上がることにもメリットがある。守備ブロック内にあるスペースを狙ったり、前向きでボールを受けることで波状攻撃を仕掛けられたりもする。守備陣形を崩すのに有効だ。
中盤の2トップにナンバー・エイトを配置できれば、その選手はインサイド・チェンネルでき、ライン間や選手間でボールを受けやすくなる。結果、相手の最終ラインを突破する回数も増やせる。さらに、2人の8番タイプの選手を中盤の2トップに起用できれば、中盤の高いエリアでオーバーロードにしやすく、フリーな選手を生みやすい。結果、中央突破の選択肢を豊富に持てる。
課題
ナンバー・エイトをポジションとしてではなく、プレー・スタイルとして捉えた場合、採用する際に最も高いハードルとなり得るのはフィジカル面だろう。1試合の90分、そしてシーズンを通じて高いフィジカルをキープできる選手が必要になる。少なくとも90分間、維持できなければ、チーム力は著しく低下する。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部