ペップ・グアルディオラ
マンチェスター・C、2016~現在
2008年、フランク・ライカールトの後任としてFCバルセロナの監督に就任して以降、ペップ・グアルディオラは成功に次ぐ成功を手にしてきた。「世界で最も影響力のある監督」と言っても言い過ぎではないだろう。偉大なる故ヨハン・クライフ(1947年4月25日-2016年3月24日)の弟子であるグアルディオラは、「史上最高のチーム」をつくり続けているからだ。
『The Coaches’ Voice』におけるインタビューでも多くの人々が彼に言及している。今回はペップ・グアルディオラに関するコメントを紹介する。
FCバルセロナ(2007‐12)とバイエルン・ミュンヘン(2013-16)、そしてマンチェスター・Cでも2017-18シーズンをペップ・グアルディオラの下で戦術アナリストとして働いたドメネク・トレントが語る。
「2007年の夏、FCバルセロナのスポーツ・センターで偶然、ペップに出会い、初めて話したときには緊張した。彼は憧れの一人だったからだ。当時、ペップはバルセロナBの監督になったばかりだった(同じ時期、トレントは戦術アナリストに就任)。
でも彼は『やあ、ペップ・グアルディオラです』と気さくに言い、『我々の戦う4部をあなたは熟知している。助けになってほしい』と続けた」
「私はいつも『ペップは勇敢だ』と言っている。しかし内に秘めているのは『計算された勇気』とも言うべきものだ。彼にはすべてのことがしっかりと見えているからそう感じるのだろう。奇妙に聞こえるかもしれないが、大変な時にこそ彼は周囲の人間を落ちつかせてくれる。そして、困難になればなるほど、彼の集中力は増していく」
「FCバルセロナでの日々は素晴らしかった。もっと偉大なことができるチームだと感じていただけに、終わりを知った時はとても残念だった。しかし、ペップの頭の中は違う思いで占められていたようだ。
2011-12シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝でチェルシーに敗れた(2試合合計2-3)あとだった。親しいスタッフを集め、彼は退任を口にした。我々は『考え直してほしい』と言ったが、口にしたことを翻すような人ではない。考え尽くした結果だ、ということは分かっいたのだが……」
「私の契約はあと2年残っていた。しかし彼を心から尊敬していたからこそ、自分も退任することを決めた。彼がいたから私がいたのであり、彼がいない場所では任務を遂行できないと思ったのだ」
かつて選手としてFCバルセロナに所属し、2008-2010シーズン、ペップ・グアルディオラをGKコーチとして支えたフアン・カルロス・ウンズエがペップのチーム・ビルディング法を明かす。
「ペップは、ヨハン・クライフのように革新的な人物の一人であり、難しい決断も下せる。例えば、『サミュエル・エトー、ロナウジーニョ、デコを戦力として考えていない』などは容易に言えることではない。しかし彼は言い、その正しさを証明した。もちろん、就任1年目からすべてのタイトルを取るとは言っていなかったし、思ってもいなかっただろう。しかし、トレーニング・ゲームでも『勝利に対する欲求』があふれていた。そうなれば、すべての試合でベストを尽くせるものだ」
「ペップは、自身の持つエネルギーと情熱をチームに広めた。そして選手たちは、ペップが発信するもの、そして自分たちが実行するものを通じて『自分たちは何でもできる』と感じていった。思うに、ペップは偉大なファシリテーターだ。そして、優秀な選手を擁したチームにプレーしやすい環境を与えられれば、結果は明白だ。すべてを勝ち取ることになる」
スペイン・リーグで通算543試合に出場したエウゼビオ・サクリスタン。1988-95までFCバルセロナでプレーし、1990-91シーズンからはペップ・グアルディオラと共に『ドリーム・チーム』の中盤を担った。
「ペップはヨハン・クライフの弟子であり、使徒だ。彼は、クライフが私たちに伝えたすべてのコンセプトを最も適切に吸収し、彼の教えのすべてを今に伝えている。もちろん、率いるチームに適した形で実践している。しかも成功に導く。またクライフから受けた影響は、ペップのすべての知識、すべての能力、そして美徳に色濃く反映されていると思う。それだけではない。ペップの個性や性格、そして情熱、熱意、知性といった物もクライフのような巨匠から得た知識によって高められているのだろう」
2021-22シーズンからUDイビザ(スペイン・リーグ2部)の監督となったパコ・ヘメスはプライベートでもペップ・グアルディオラと親交が深い。
「シーズンオフには一緒にゴルフを楽しみ、素晴らしい友好関係を保てている。代表チームでは3年間(1998から2001年)チームメイトだったし、監督のライセンス・コースも一緒だった。だから、『僕が彼に全部教えた』と言っている。もちろん、冗談だ(笑)」
「彼と一緒にいるのは楽しい。彼が口にする短い文章からでも何かを学べる。ペップは自分の仕事に対して情熱を持ち続けられる特別な男だ。実際、彼は1分1秒を100パーセントの力で過ごす。私にとって唯一無二の存在だ」
2017年からイングランドのフットサル代表を務めているマイケル・スクバラが、参考にしているのがペップ・グアルディオラだと言う。
「バルセロナというスポーツクラブには世界最大規模のフットサルクラブもある。クラブで働くコーチたちは競技の枠を超えてアイディアや哲学を共有していると聞く。とりわけ、グアルディオラがバルセロナの一員だった頃は、指導者同士が意見を盛んに交換していたようだ。例えば、彼が率いるマンチェスター・シティの選手たちが見せるスペース・メイクはフットサルのプレー哲学を強く想起させる。そういうペップの指導哲学は、イングランドのサッカー界に多大な影響を与えている」
2019年からU-23メキシコ代表を率いるハイメ・ロサーノはFCバルセロナの試合を憧れのように見て育ったと言う。実際にマンチェスター・Cに帯同したこともあるメキシコ人指揮者が感じた「ペップ」とは?
「記憶に残るチームは、独特の感覚を有しているものなのだ。グアルディオラのチームもそうだ。彼の考えに触れて感じるのは、長い時間をかけてアイディアを明確にしてきたこと。例えば、彼にはヨハン・クライフ、ルイス・ファンハール、ボビー・ロブソンという偉大な師がいる。それは、監督であるために非常に重要なことだと思う」
「彼のコーチング・スタッフを見ていると、すべての人が非常に明確な役割を持っていることが分かる。グアルディオラがしているように同じスタッフと長い間を過ごすと、各スタッフは『自分が期待されていること』、『自分がしなければいけないこと』が分かる。すると最終的には、自然と役目を果たせるようになる」
ペップ・グアルディオラをFCバルセロナの軸に据えた故ヨハン・クライフを父に持ち、ペップとも共に戦ったジョルディ・クライフがペップの現役時代を話す。
「(当時のFCバルセロナの)キーパーソンはペップ・グアルディオラだった。相手に攻め込まれた際には中盤の底に入って守ることもあったが、守備的な選手ではなかった。通常、彼はもっと高い位置でプレーしてビルドアップに貢献していた」
「グアルディオラは『角度の達人』だった。彼は、左足でコントロールして右足でパスといった具合にたった2タッチで次々とボールを動かした。しかも、ライン間にいる味方を見逃さず、彼はいつも縦パスを狙っていた。彼がビルドアップのカギであり、角度の達人だと対戦相手も理解していたから、彼にマークをつけていたのだが……」