才能と努力は成功の両輪だ。
ただし、どれほどの才能に恵まれた選手であっても、良いトレーニング計画がなければ、最高のパフォーマンスを発揮することはできない。一方、良いトレーニング計画に取り組めば、より効果的に選手の持ち味を引き出せ、成長させられる。
長いシーズンを通じて良い結果を出すためには、正しく前進していく必要がある。ケガのリスクを最小限に抑えながら、身体的、技術的、戦術的、心理的なパフォーマンスなど、すべてのレベルを常に向上させていかなければならない。
シーズン中に達成されるべき目標は個人(選手)と集団(チーム)を向上させるための基本原則に従って計画されるべきだ。そして、トレーニング計画を構築するための方法の一つに『マクロサイクル』(macrocycle)、『メゾサイクル』(mesocycle)、『ミクロサイクル』(microcycle)という概念がある。
今回は、トレーニング・サイクルの基本的な考え方を紹介しよう。
ミクロサイクルとは?
トレーニング計画を構成する3つの概念のうち、最も期間が短いものがミクロサイクルである。一般的に、ミクロサイクルは1〜2週間くらいで区切られ、いくつかのトレーニング・セッションで構成される。
なお、マクロサイクルは「1年から1年以上」、あるいは1シーズンで考えられることが多く、メゾサイクルは1、2カ月である。
こうした考えに基づいて構成されるトレーニングは、期間ごとに目標を設定し、目標を達成するために必要な時間を考慮しなければならない。通常、トレーニングの量や負荷は時間の経過とともに増やす。また、チーム競技であれば、組織的に準備を進めることになる。もっとも、トレーニング計画はシーズンを通じてフレキシブルでなければならない(選手は機械ではないため、状況に応じて量や負荷を変化させる)。
また、1回のミクロサイクルにはさまざなま期間が考えられる。2セッションで終わることがあれば、12セッションというこもある。セッション数や期間の長さは、「シーズンインしている」、あるいは「シーズンオフ」など、現在、チームがどのようなタイミングにあるかによって決まる。
近年、サッカー界で最もよく見られるミクロサイクルは6〜7日間のものだ。これはMTM(マッチ・トレーニング・マッチ)を反映している。そして試合から次の試合までの期間に4、5セッションを実施するのもオーソドックスなミクロサイクルと言っていいだろう。
どのようにミクロサイクルを構築するか?
個人競技とサッカーのようなチーム競技には大きな違いが存在する。それは、すべての選手のコンディションがある試合でピークに達していなくても、プレーできる点である。
したがって、サッカーにおけるトレーニング・サイクル(ミクロサイクル)を計画する上でクローズアップされるのは、試合に向けて選手が最良のコンディションを獲得することでも、コンディションを維持することでもない。シーズンを通じ、選手たちが成長すること、そしてプレーが継続的に改善できることがフォーカスされるべきなのだ。
■ミクロサイクルにおける原則:
・チームのゲーム・モデルに基づいている。つまり、チームの実現したいプレーに沿って考えられなければならない
・次の対戦相手を考えた上でチームの強みを強化し、弱みを改善
・前に試合で表出した課題を修正
・身体的、技術的、戦術的、心理的な要素を向上させる
また、ミクロサイクルは各トレーニング・セッションによって構成される。そしてトレーニング・セッションは、個人と集団の向上に焦点を当てつつ、チームを総合的に良くするものである。
ミクロサイクルの導入目的
正しくミクロサイクルを構築できれば、適正な負荷のトレーニングを選手に提供できる。それにり、選手の身体的、技術的、戦術的、心理的パフォーマンスを向上させられる。
ただし、チームにおけるトレーニング負荷は、短期、中期、長期という視点に立って考えなければならない。この点がトレーニング・サイクルを構築する上で非常に難しい部分であり、同時に面白い部分でもある。指導者は、それぞれのミクロサイクルごとに正しく負荷を分配してチームを成長させていくことになる。そしてチームを成長させるために必要な日数とセッション数をチームの状況を観察しながら決める。
シーズンインしたばかりの時の最も一般的なミクロサイクルでは1週間に4、5回のトレーニング・セッションを実施する。そして、その週にあらかじめスケジューリングされている公式戦当日までの日数に応じてトレーニングの内容と負荷を決定する(1週間に1試合と2試合では異なる)。
良いミクロサイクルを構築するためには、1週間のトレーニングを構築する際に「目的を達成するために必要なタスク」を考える必要がある。
大事なのは時間と目的だ。
そして、コーチングスタッフがチーム、選手に求めるコンセプトをより早く、かつ正確にチームと選手が吸収するためにミクロサイクルを考える必要がある。
ミクロサイクルのメリット
ミクロサイクル策定の目的は選手個々の技術、フィジカル、認知、判断のレベルを維持するだけなく、向上させること。そして、選手個々のコンディションが良いことは、当然、集団(チーム)の強化にもつながる。
そして、毎ごとのトレーニングのすべての成果(成否)は週末に開催される公式戦のパフォーマンスによって計測される。
公式戦のパフォーマンスを前提にするのだから、トレーニングの与える効果だけなく、「選手たちが疲労をためない」という視点も欠かせない。指導者が実施したいトレーニングを実施し、「週末の公式戦で選手が動けない」というのは本末転倒だ。つまり、トレーニングの負荷をコントロールしなければならない(疲労が蓄積して選手のパフォーマンスが低下するようなことは避けなければならない)。すると、回復期という視点も欠かせない。
最終的には、負荷をコントロールしながらのトレーニングが個人(選手)と集団(チーム)のプレーを向上させる。一方、選手はケガを予防しながらも、激しいボールの奪いがある試合で要求される負荷に耐えられるようにならなければならない。
トレーニング計画を進める上では、選手はあらゆる能力を意図的に向上させることになる。そしてチーム(選手)を強化していく上では、監督の求める技術と戦術をベースにしつつ、フィジカル・コンデションとゲーム・モデルの最良のバランスを見出さなければならない(一方に偏っては、チームとしていいパフォーマンスを発揮できない)。
ミクロサイクルのデメリット
ミクロサイクルを含めたトレーニング計画の立案には複雑なプロセスを要する。しかも計画を実際に運用するには、強い忍耐力、規律、粘り強さが欠かせない。同時に、その時々にチームが必要とするものや試合で結果を残すために必要とされるものについて多くの時間をかけて考える必要がある。
また、ミクロサイクルを適切に立案し、運用するには多くの知識が必要となる。例えば、クラブについての知識、施設、道具、選手、競技そのものに対する知識など。さらに、コーチングスタッフが日常的に選手にかかっている負荷をコントロールするにはいくつかの道具が必要となる。日々のトレーニング負荷を正しくコントロールできなければ、試合でパフォーマンスを発揮するのは難しくなる。当然、フィジカル、技術、戦術、戦略に対する正しい知識も必須だ。
ミクロサイクルやトレーニング計画におけるこれらの高い要求はデメリット、あるいは高いハードルとなり得る。まず、知識を得たり、知識のある人物をすべてのアマチュア・チームや育成年代のチームが迎え入れるのは簡単ではない。
また、「結果を求められる」というスポーツのある側面と相反することも少なくない。カテゴリーに関係なく、短期的に結果を求められることが少なくないため、中長期的な計画を立てる余裕がないことが多い。すると、場当たり的なミクロサイクルの繰り返しという悪循環に陥りかねない。
ミクロサイクルで考慮すべき点
トレーニング計画を構築する際には「目的を明確にし、取り組むべき課題を選定し、トレーニング内容とリンクさせなければならない」。しかも、すべての要素は実際のゲームで起こることに則していなければならない。当たり前だが、ゲームからかけ離れたトレーニングや設定で改善できるものは少ない。
基本的に、ミクロサイクル単体では成立しない。獲得すべき目的をマクロサイクル、メゾサイクルに落とし込み、さらにミクロサイクルに落ち仕込んですべきことを明確にする必要がある。同時に、目的の難易度や複雑具合に合わせて段階的にトレーニングしていくことが重要であり、肉体的な負荷を常に考慮しなければならない。
ミクロサイクルを用いたトレーニング計画を実施することで得られるいくつかの要素を以下に紹介する。
・何気なく行なっているルーティーン・ワークや思いつきのトレーニングを行なわないですむ
・課題や目的がトレーニングとリンク
・時間と手間を省ける
・監督交代時の引き継ぎをスムーズにする
・選手の評価と基準を明確にできる
当然、選手のモチベーションも考慮しなければならない。課題を克服し、技能を習得するまでにかかる時間、あるいは試合から逆算しながら選手のモチベーションを刺激するような要素を盛り込むこと必要もある。
翻訳:石川桂