ポジショナル・プレーとは?
ポジショナル・プレー、スペイン語で言う『フエゴ・デ・ポジシオン』は、世界トップレベルの多くの監督に試みられている戦術。基本的な考え方は、ボールをアタッキング・サードまで運ぶことを目的としてパスをつなぎやすい三角形やダイアモンドを描くように選手がポジショニングし、さらに数的優位の状況を作ることと言える。そのために全選手がチームメイト、相手選手、そしてボールの位置によってポジショニングを変更したり、調整したりする。
マンチェスター・シティ(イングランド)を率いるペップ・グアルディオラ流のポジショナル・プレーでは、ピッチのゾーン分けが基本(下写真)。ピッチ上に縦と横の仮想ラインを引いてゾーンを設け、11人の選手は各ゾーンに振り分けられる。そしてパスコースを作るため、同じ横の列に同時にいていい選手は3人まで、縦の列には2人までに制限される。すると、チームメイトの動きに合わせて各選手は連動して動くことになり、ポジションを変更し続けることで相手チームを混乱させられる。
ポジショナル・プレーはあらゆる場面で運用される。ゴールキックや中盤でのプレー、そして敵陣やアタッキング・サードでも見られる。どのような場面でも、スペースと複数のパスコースを作り出すという目的は不変。ただし細かい約束事は、ピッチのエリアや監督のスタイルによって変わる。
ポジショナル・プレーの源流
ポジショナル・プレーの原理はアヤックス(オランダ)を率いていた頃の故リヌス・ミケルス(1928年2月9日– 2005年3月3日)の戦術に見られ、その後、ミケルスの下でもプレーした故ヨハン・クライフ(1947年4月25日 – 2016年3月24日)がFCバルセロナでこの理念を発展させた。この2人のオランダ人によるサッカーは『トータル・フットボール』と呼ばれた。そして、現代サッカーにおいてトータル・サッカーをポジショナル・プレーへと応用させたのがクライフの弟子とも言えるグアルディオラ。彼は、ポジショナル・プレーを使って大きな成功を収めている。
攻撃時のポジショナル・プレー
ポジショナル・プレーの主な構成要素は「3つの優位」とされている。それらは、人数、質、位置で優位に立つことだ。
・人数:いわゆる数的優位と呼ばれるも。特定のスペースに相手より多くの選手がいるようにすること。
・質:質的優位とは、相手選手に対して相手より優れた自チームの選手が「1対1」の状況になるようにすること。
・位置:位置的優位とは、ライン間やラインの裏に選手を適宜入り、ボールを持った時にはスペースと時間があるようにし、効果的に攻めることを指す(体の向きの調整なども含める)。
ポジショナル・プレーを使うチームの選手は、「3つの優位」を作り出すことを常に意識してプレーしなければならない。
また、ゾーンを意識したポジショニングによってピッチ上に三角形やダイアモンド形を作り出すことでボール保持者はスペースとパスコースを手にできる。さらにボール保持者が相手選手引き寄せ、フリーになったチームメイトにパスを送る。これを連続させることで、ボールを前線まで動かしやすくなる。
さらに、攻撃時には幅を確保して中央にスペースを開けるようにする。選手は自分とチームメイトの位置を常に把握し、常に周りに合わせてポジショニングを調整しなければならない。ボールを保持していない選手は、相手の選手を動かしてパスコースを開けることを意識して移動する。
守備時のポジショナル・プレー
ポジショナル・プレーはあくまで攻撃時の理念であるため、ポジショナル・プレーにおける守備戦術というものはない。だが、『カウンター・プレス』はポジショナル・プレーと共に使われることが多い。
カウンター・プレスとは、ボールを失ったらできるだけ前のエリアでボールを奪い返し、素早く相手の反撃の芽をつむ戦術。攻撃を繰り出すためのポジショニングの隙を突かれる前にボールを取り返すのが重要になる。
ポジショナル・プレーの成功例
マンチェスター・シティ(ペップ・グアルディオラ監督)
ポジショナル・プレーの代表的な成功例はマンチェスター・シティだろう。ビルドアップの開始時を例に解説する。
基本的には、まずサイドバックがサイドの高い位置に移動。次にセンターバックが広がり、中盤の底(ピボットやボランチなど。上写真の8番:Gundogan)が相手FWの背後に入ってセンターバックと三角形を作って数的優位を作る(上写真)。センターバックは相手FWを引きつけた上でフリーとなった中盤の選手にパスを出す。
最初の目的は、ピボットの選手へボールを送ること(守備ラインを越えること)。中央のスペースでボールを受けたピボットは前を向くか、サイドバックやサイドハーフにボールを出す。もし前進もサイドへの展開もできなければ、センターバックに一旦ボールを戻し、より良い位置でボールを受け直して前にパスする。
敵陣内に入ったら、横一列にならないように選手はポジションをずらす(高さを変える。上写真)。主目的は、ビルドアップの開始時と同じ。相手のラインよりも前(背後)にいるチームメイトにボールを出してラインを越えること。ウインガーはサイドの幅を最大限に使い、最終ライン裏への突破を狙う(7番のSterling)。
スペイン代表(ルイス・エンリケ監督)
FCバルセロナでグアルディオラの後継者となったエンリケ監督率いるスペイン代表もポジショナル・プレーを使うチーム。主な構成要素は、多才な攻撃的MF陣の選手を相手のラインの間に配置し、彼らにボールを送ることだ(下写真)。なお、マンチェスター・シティでは両ウイングが幅を保っているのに対し、スペイン代表ではサイドバックがこの役割を担っている。
ポジショナル・プレーの長所
ポジショナル・プレーをうまく使えれば、質が高く、効果的なサッカーができる。グアルディオラ率いるマンチェスター・シティを見れば分かるように、非常に魅力的なサッカーをしながら多くの成功を収めることができる。
また、ポジショナル・プレーでは選手が間隔を広げてポジショニングすることでピッチ上に広いスペースが生むようにする。そのため、通常はスペースを確保しづらい中央のエリアでもスペースを空けられ、中央でボールを受けられる可能性も高まる。また、ピッチを広く使うため、サイドの裏のスペースに選手を送り込む可能性が増加。こうしてサイドからセンタリングを上げられれば、得点の機会を増やせる。
ポジショナル・プレーの短所
ポジショナル・プレーを成功させるには、ハーフターン(半身)でボールを受け取って前を向け、しかもすぐに次のパスコースを見つけられるなど、質の良い選手が何人も必要になる。逆に言えば、良い選手が揃っていなければ、ポジショナル・プレーの実現は難しい。また選手には、ポジショナル・プレーを細部まで理解し、ピッチ上ですべきことを常に把握できるような理解力も求められる。さらにシステム自体とシステム上の役割を理解し、ピッチ上で表現できなければならない。
ポジショナル・プレーができるようになるまでに時間を要するのも難点だろう。
守備時の課題もある。
ポジショナル・プレーは攻撃時に幅を広く保つため、フォーメーション内にスペースを生むことになる。すると、ボールを失って守備時に転じた際、カウンター攻撃を受けやすい。ポジショナル・プレーを運用する上では、守備時もシステムに従って選手が長距離を素早く走って戻るなど、守備対策を練る必要がある。
うまくやり遂げられれば、ポジショナル・プレーは魅力的でも効果的でもある。だが、プロの世界でも実践できているのは限られたチームだけ。なぜなら、ポジショナル・プレーを極めるのは非常に困難だからだ。
翻訳:西澤幹太