ラファエル・レオン
ACミラン:2019-2020〜現在
プロフィール
2021-22シーズンのイタリア・リーグを制し、『スクデット』(優勝の盾)を11年ぶりに奪い返したACミラン。黄金時代の再構築に向けて変貌するクラブにあって、ラファエル・レオンはメインキャストを演じる一人である。
才能の宝庫であるポルトガル・サッカー界が誇る次代のエースを紹介する。
1999年6月10日生まれのレオンは9歳の時からスポルティングCP一筋。2016-17シーズンはBチームでプレーし、翌2017-18シーズンにはサイドアタッカーとしてトップ昇格を果たす。リーグデビューは2018年2月11日(CDフェイレンセ戦)、初ゴールをマークしたのは3月3日(FCポルト戦)だった。
生え抜き選手の躍動に期待が募ったが、トップでのプレーはわずか1シーズンで終わる。サポーターによる選手やスタッフに対する襲撃事件が発生し、レオンを含めた数名の選手が退団を決意。2018年8月8日にLOSCリール(フランス)と5年契約で合意した。
2018-19シーズンの序盤、19歳の若武者はベンチ外も味わったが、9月30日のマルセイユ戦でデビューし、10月27日のカーン戦(11節)で初ゴールを決める。すると18節から24節にかけて4試合連続ゴールを含め、7試合出場6得点と大暴れ。キリアン・エムバペとの比較論がフランス国内では見られるようになり、『ポルトガルのエムバペ』と呼ばれる存在となった。
5大リーグでの1年目に24試合出場8得点という好記録を残した10代のアタッカーをビッグクラブが放っておくはずがなかった。中でもチーム再建に取り組んでしたACミランが熱心に勧誘し、2019年8月1日にはACミランへの移籍(5年契約)が発表された。
しかし堅守で鳴らすイタリアの水は甘くなかった。
リーグ戦での4試合目となった2020年9月29日のフィオレンティーナ戦で初ゴールを奪うも、2019-20シーズンは31試合に出場して6ゴール。続く2020-21シーズンも、USサッスオーロ戦(12月20日)ではセリエA史上最速となる開始6.2秒でゴールを決めて話題となったが、30試合に出場して6得点と不発。2シーズンにわたり、3000万ユーロ(約42億円)の移籍金に見合う活躍は見せられなかった。
「4-2-3-1」システムの「3」の左に固定された2021-22シーズン、ついにレオンは覚醒。序盤からコンスタントにゴールを量産し、左サイドから決定機を次々と作り出した。そして、USサッスオーロとのリーグ最終戦では3ゴールすべてをアシストしてチームを優勝に導いた。34試合出場11ゴール10アシストのレオンは2021-22シーズンの最優秀選手賞を受賞した。
ACミランのステファノ・ピオリ監督は言う。
「オフ・ザ・ボールにおけるレオンはとても良くなった。ただし今後は、ペナルティーエリア内でのプレーを増やしていくべきだろう」
ポルトガル代表
レオンがポルトガル代表のユニフォームを初めて身につけたのは2014年10月21日。U-16代表としてプレーした。2015年にはU-17代表の一員として『UEFA U-17ヨーロッパ選手権』に出場し、優勝に貢献。その後、U-19、U-20、U-21の代表を経て2021年10月9日、カタールとの親善試合で初キャップを手にした。
2022年のカタール・ワールドカップでは全5試合に出場。ガーナ(◯3-2)とのグループステージ第1戦では代表初ゴールをマークし、第3戦のスイス戦(◯6-1)でもゴールを決めた。5試合に出場して存在感を示したレオンだが、すべてが途中出場であり、83分の出場時間にとどまった。
テクニカル分析
レオンは右利きのアタッカー。188センチと背が高く、広いストライドを活かしてフィールドを駆る。得意の突破パターンはシザース・フェイントを入れて一気に相手を置き去りにし、大きな体で相手をブロックして進路を確保するものである。大柄だが、スピードに恵まれ、テクニックとモビリティーも高い。左右で蹴れるのも武器だ。
レオンはキャリアを通じて左のサイドプレーヤー、セカンド・ストライカー、そしてセンターフォワードとしてプレーし、ポリバレントな能力を披露。一方で、「最も適したポジションはどこなのか?」と疑問視されることもあった。
2019-20シーズンからACミランを率いるピオリ監督は当初、レオンのユーティリティーさを信頼し、いろいろなポジションで起用しつつ、左サイドハーフやセンターフォワードとしての起用を増やしていった。1トップに入っても、ペナルティーエリア内にとどまる古典的な「9」ではなく、圧倒的に広いストライドで2列目からジャンプして来るモダンなアタッカーへの成長を促した。
迎えた2021-22シーズン、ピオリ監督はレオン(17番のLeao)を「4-2-3-1」システムにおける「3」の左に固定(下写真)。ただし、動きまで固定することはなく、持ち前の機動力とスピードを活かせる自由を与えた。実際、レオンのプレー・エリアを分析すると、センターフォワードに入ったオリビエ・ジルーやズラタン・イブラヒモビッチの背後でもプレーしていたことがうかがえる。
2021-22シーズンにおけるレオンのスタッツを見ていこう。
国内リーグではチーム最多となる11ゴールをマークし、コッパ・イタリアで2得点、UEFAチャンピオンズリーグでも1得点。それまでの2シーズンは共に6得点だったのだから、倍近くまで伸ばしたことになる。また、リーグでのアシスト数もチーム最多となる10(他にコッパ・イタリアで1、UEFAチャンピオンズリーグで1)だった。
ゴールとアシストを積み上げられたのはパターンを確立できたからだろう。左サイドでボールを受けたレオンがカットインした時には単独、あるいは連係してシュート。スピードを活かして縦突破した時にはクロスによってゴールをお膳立てした。
2021-22シーズンの躍動によってレオンの市場価値は7000万ユーロ(約98億円)に急上昇したと言われている。しかし、彼の成長曲線が頂点に達したと見るのは早計だろう。
アタッカーにとって最も重要な指標であるゴール数やアシスト数に関してレオン(17番のLeao)には改善の余地がある。つまり、フィニッシュ・シーンにおいて選択の精度を高めること、決断力を磨くことがポルトガルの英雄、クリスティアーノ・ロナウドに近づく道だ。ワールドクラスと言っていい相手を圧するフィジカル能力とドリブルの破壊力を効率良く活用してゴールの頻度を高めていきたい(下写真)。
例えば、自らチャンスを作り出してフィニッシュするだけでなく、味方が作り出したチャンスを仕留める回数を増やせたならば、得点数は自然と増加するだろう。あるいは、ダイアゴナルにドリブルで仕掛けて打つシュートのバリエーションを豊富にすることでも得点数は増すだろう。GKを避けてゴールに吸い込まれるようなカーブを描くシュートも効果を発揮するだろう。
2022-23シーズンのスタッツにも彼の成長が見て取れる。
18節終了時点で17試合出場8得点6アシストを記録し、得点もアシストも昨シーズンの数値を上回れる公算が高い。
レオンが急成長した背景にはピオリ監督が提唱する『トラジショナル・プレー』との相性の良さがある。
ボールを奪ったら縦にボールを素早く送り、ゴールを優先的に目指すACミランのスタイルが彼のストロング・ポイントを存分に引き出した。
現在のレオンは、効果的な連動性や狭いスペースでの決定的なプレー、あるいはライン間でボールを受けてラストパスを送る能力を有しているとは言い難い。しかし、彼のスピードと突進力は比類なきものであり、カウンター・アタックの水先案内人として余人をもって代えがたい。ピオリ監督が目指すプレー・スタイルを実現する上で欠かせないピースなのである。
レオン自身もアウト・オブ・ポゼッション時の役回りを完全に理解している。
まず、相手のビルドアップに対して執拗なチェイシングを繰り返し、ボール奪取につなげてショート・カウンターを呼び込む。相手にすれば厄介なFWだ。
また、ビルドアップ局面で自チームが苦しんでいれば、前線に君臨して頼れるターゲットになる。188センチの長身を活かして空中線で勝利、あるいはスピードを活かして裏のスペースでボールを受ける(下写真)。チームメイトにすれば、常に「逃げ道」があることは心強い。また、レオン(17番のLeao)の存在を警戒する相手は安易にはラインを上げられないし、プレッシングに人数をかけて前のめりになることにはリスクが伴う。
ある意味レオンは、相手の守備戦術をコントロールしているのだ。
オフ・ザ・ボールでのプレー
ACミラン加入後、格段に進歩したと言われているのがオフ・ザ・ボール時の動きやポジショニングである。ヨーロッパの中でも戦術的な要求度合いの高いイタリア・リーグで揉まれることによって進化していると言っていい。
とりわけ、左サイドバックであるテオ・エルナンデスに対する積極的なサポートが光る。ボールを保持しているエルナンデスに対してパスラインを描くように心がけ、彼が窮地に陥るのを未然に防ぎ、さらに攻撃を前進させる上で一役買っている。
無論、レオンがパスの選択肢を与えるのはエルナンデスだけではない。チームがポゼッションしている時、MFやFWをサポートして攻撃のオプションを提供。近寄ってパスコースを作るだけでなく、相手サイドバックやライン間で入り込んでレシーブする姿もよく見られる。結果、攻撃のバリエーションが増え、ピオリ監督も多くの攻略方法を手にできている。
ディフェンスにおける高い貢献度もレオン(17番のLeao)のストロング・ポイントに数えておくべきだろう(上写真)。ボールに直接関われないような局面でもスプリントして帰陣し、ボールの動きに合わせた微妙なポジション修正も怠らない。むしろ積極的に味方をサポートすることで相手のプレーを限定。さらに、セットプレーでの空中線やセカンド・ボールの争奪戦などにも果敢に加勢してボールを拾う。
今やレオンは高度な戦術的インテリジェンスを備えた選手と評価されている。
偉大なるポテンシャル
2021年のデビュー以降、A代表に定着しているが、思うように出番を得られていない。ACミランとポルトガル代表は同じ「4-2-3-1」システムを採用しているだけにより不思議に思われる。
確たる地位を築けない背景には2つの理由が考えられる。
1つ目はクリスティアーノ・ロナウドの存在だ。ポルトガル代表はクリスティアーノ・ロナウドを中心
に戦術が組み立てられており、レオンはACミランほどの自由を与えられてない。
2つ目は攻撃のリズム。ポルトガル代表はベルナルド・シルバ、ジョアン・モウティーニョ、ブルーノ・フェルナンデスといったテクニカルな選手で攻撃を構築し、ショートパスの連続によって局面を打開する。ACミランほどは縦に速い攻撃を重視していないため、レオンは良さを発揮できないのだ。
結果、ポルトガル代表のレオン(17番のLeao)は流れに乗りづらい。そのため、左のタッチライン際で構えてボールが出て来るのを待っていたり、左からフィニッシュ・シーンに出没したりすることが多い(下写真)。
初めてのワールドカップは不完全燃焼とも言えるプレータイムに終わったが、レオン自身に対する評価はうなぎ登り。ACミランとの契約満了が2024年6月に迫っていることもあり、ビッグクラブが獲得に動いているとの報道がメディアを賑わせている。
もっとも、レオンはACミラン残留を望み、クラブも150万ユーロ(約2億1000万円)から700万ユーロ(約9億8000万円)へと年俸を大幅に増額して応えるようとしているようだ。
ポルトガルのエムバペが下す決断に注目が集まるが、ACミランの再興にレオンが欠かせないことは間違いない。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部