ロドリ
マンチェスター・シティ:2019〜現在
ロドリことロドリゴ・エルナンデス・カスカンテは1996年6月22日生まれ。2007年にアトレティコ・マドリードの下部組織に加入したが、2013年にビジャレアルCFの『カンテラ』(育成部門)へ移籍。2015年12月17日に『コパ・デル・レイ』においてビジャレアルFCのトップデビューを果たし、2016年4月17日にリーガ・エスパニョーラ(ラージョ・バジェカーノ戦)に初めて出場した。2018年にはA・マドリードに5年契約で復帰したが、2019年7月4日にマンチェスター・シティに移籍した。契約が発表された当初は、マンチェスター・シティがクラブ史上最高額となる6280万ポンド(約85億円)の移籍金を支払ったことを懐疑的に見る者も多かった。しかし、ペップ・グアルディオラ監督のもとでロドリは結果を残すことで懐疑論をはね返した。
グアルディオラ監督は言う。
「彼はとても良くなっている。彼は何が起こるかをよりよく読めるようになっている。持ち前の信じられないようなエネルギーで問題を解決しようとする傾向も見られるが、考えることを重視するようになっている。私たちは、彼が信じられないような成長を見せ始めている感触を得ている」
「スペインのセンターハーフ」という色眼鏡でロドリを見ると、いい意味で大きく裏切られるだろう。
背が高くてガッチリし、エネルギッシュ。しかも粘り強くプレーでき、ボールを扱うことと同じくらいボール奪取に長けている。中盤の底に立つピボット(ボランチ)として攻撃をサポートする一方、ボールよりも前でプレーすることが少ないため、カウンター・アタックに対する防波堤になり得る。また、レシーバーにボールが近づいた瞬間にアプローチできるなど、洞察力という点でも優れている。
体格や国籍、そしてポジションの類似性からFCバルセロナで大きな影響力を発揮するセルヒオ・ブスケッツとよく比較される。
ロドリもブスケッツ同様、コンタクトしてボールを奪い返すこと、そして中盤中央における効果的なポジショニングによってセカンド・ボールを拾うプレーでも優れたスタッツを残している。両者は同じく、相手を追走している時、リカバリーランしている時でもスライディング・タックルを仕掛けることは稀。コンタクトすべきタイミングを見極め、タックルした時にはボールを奪うことが多い。
A・マドリード時代に比べると、マンチェスター・シティのポゼッション率が圧倒的に高いこともあるが、現在のタックル数は非常に少ない。しかし、これほど対照的なスタイルであるにもかかわらず、両チームで守備的MFの役割をしっかり果たせていることは彼の能力の高さを示していると言っていいだろう。
確かに、彼の評価を高めているのは守備能力の高さである。しかしロドリは、パスやプレッシャーを受けながらボールをキープすることでも非凡な才を見せる。また、ビルドアップ段階においても重要な役割を果たしている。攻撃センスに恵まれている仲間にリスキーなパスを任せているのは事実だが、ロドリも鋭い縦パスでラインを破れる。そうした能力は、シティの魅力的な攻撃陣をライン間へと導く。
ロドリ(16番のRodri)が得意とするパスがある。それは、右サイドのアタッカーの走り込みに合わせて最終ラインの裏に出すチップキックのパスだ(上写真)。
MF陣の中でも後方に位置するロドリがボールを受けると相手はプレッシャーを与えるためにラインを上げる。上げる動きと入れ替わるように右サイドのアタッカーが最終ラインの裏へ滑り込み、ロドリがフワリとしたボールを供給。レシーブした選手はゴール前にパスし、あとはフィニッシャーが仕留めるだけ。一連の動きにはわずかな淀みもなく、シティの攻撃にしっかりと織り込まれている。
マンチェスター・シティでの役割
グアルディオラは、シティの監督就任以来、シングル・ピボットとダブル・ピボットを併用してきた。しかしロドリがシティに加わってからは、彼のボール奪取能力、身体能力、ポゼッションでの貢献を信頼してシングル・ピボットの「4-3-3」システム をメインに据えている。
しかし、シングル・ピボットだけという訳ではなく、試合中にシングルにしたり、ダブルにしたりする。
ビルドアップを開始すると、マンチェスター・シティは「3-2-2-3」システムに変形。ロドリ(16番のRodri)の隣に左サイドバックのジョアン・カンセロ(27番のCancelo)が上がって3バックでの『サリーダ・デ・バロン』 を始める。中盤の形はダブル・ボランチの前に2人の背番号8(インテリオール)が並ぶ四角形。高い位置の2人の8番(20番のSilvaと8番のGundogan)はラインの間にポジショニングし、最終ラインからボールを引き継いだピボットからボールを受けて攻撃を前進させる。両ウイングは高い位置でワイドに構えて相手のディフェンスを引き伸ばし、ボールを受けたインテリオールが入り込めるギャップを相手選手の間に作り出す。
攻撃がファイナルサードに達した時にもロドリはボールよりも後ろのポジションをキープ。DF陣と共に、カウンター・アタックのリスクを管理する。ロドリの存在はチームに守備の安定感をもたらしている。フェルナンジーニョ(2021-22シーズン終了後、アトレチコ・パラナエンセに移籍)がピボットに入っていた当時は、彼が攻撃に参加することでネガティブ・トランジション 時の備えがやや脆弱だったのだ。
「カウンター・アタックの備え」という色合いが濃いロドリ(16番のRodri)だが、待っているだけではない。
多くのケースでは攻撃陣の第1プレスに追随する第2のプレスを担当。しかし、パスが緩い、あるいはパスがずれてインターセプトのチャンスと見るや、チームメイトを追い越して果敢にインターセプトを狙う(上写真)。彼の果敢さは中盤のエア・ポケットを生むリスクをはらむが、タイミングを見誤ることが少なく、奪いに行った時には迷わず、アグレッシブにプレスをかけるため、ボールをハントすることが多い。
身長191センチのロドリは空中戦にも強く、グアルディオラ監督はサイズよりも技術力を重視することもあり、彼の身長は重宝されている。特に相手のセットプレーではボールをはね返す重要な役割を果たす。
マンチェスター・シティの攻撃がストップされてクリアされた時、クリア・ボールをはね返したり、ボールを収めたりすることでもチームに貢献。ようやく攻撃を阻止して一息つきたい相手に対し、すぐさま攻撃を仕掛けるためのキーマンでもある。プレッシャーを与えられ続けるため、相手は心身共に疲労を蓄積させていくことになる。
彼に付けられた高額な値札とフェルナンジーニョの後継者という見立てからロドリは大きな期待を背負ってマンチェスター・シティに加入。やや精彩を欠いた時期もあったが、比較的早くチームに馴染み、クラブの期待に十分応えている。現在では、欠点の少ないチームにとって、なくてはならないプレーヤーだ。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部