「『ロンド』には、サッカーに必要なものがすべて詰まっている」
故ヨハン・クライフ(1947年4月25日-2016年3月24日)がこう表現したロンドは現在、多くのコーチがトレーニング・セッションやウオーミングアップの一環として使用しているトレーニング・メニューである。
1988年、FCバルセロナの監督に就任した故クライフは時代の先端を走るトレーニングを多く携えていた。彼が、プレー・スタイルを構築するために欠かせないトレーニングとして導入したのがロンド。ショートパスと素早いコンビネーションでDFのチェイスをかわすことが求められるこのトレーニングはFCバルセロナのアイデンティティーの一部だ。
ロンドとは?
ベーシックなもの、特にFCバルセロナでよく実施されるロンドは通常、円形のグリッドを使用(いろいろな形のグリッドで実施可能)。グリッド内にはDFが入り、円形グリッドの立つ選手(攻撃側)はパス交換。DFはインターセプトやグリッド外にボールを蹴り出して攻撃を寸断し、この際、攻撃側の選手と守備側の選手が交代する。攻撃側に目指すパス交換数を課してゲーム性を高めてもいい(課題をクリアされた守備側に罰ゲームを課してもいい)
参加者の人数に決まりはなく、攻撃側と守備側の人数比率も変えていいが、守備者よりも攻撃者を多くするのが一般的。また、目的に応じて攻撃側のタッチ数を制限してもいい。難度を上げるケースでは1タッチに制限し、グリッドを小さくしてもいいだろう。
ロンドは実にシンプルなトレーニングだ。しかし、パス技術やビジョン、ボール・コントロール、コンビネーション・プレーなど、いろいろなものが向上できるものでもある。
ロンド導入の目的
ロンドの根底にあるのは「楽しさ」と「競争心」。ロンドを実施する際には、この2点を選手が意識できるような設定にする必要がある。攻撃側の選手がポゼッションにこだわり、守備側の選手がボール奪取を執拗に狙うにように導かなければならない。
またロンドでは、ペースやインテンシティーも重要な要素になる。競争心を刺激し、選手を楽しませるための重要な要素であるからだ。いつでも、いつまでもゆったりプレーしていいようなトレーニングでは望むような効果を得られない。楽しみながらも選手同士がファイトする中で技術的、そして肉体的に選手を向上させることを指導者は意識すべきなのだ。
ペースやインテンシティーを高める上では、時間設定に気を配るべき。ハイインテンシティーを維持できるプレー時間にし、適度な休息を入れることで身体能力を高められる。
また、設定次第ではウオーミングアップやクールダウンに活用することも可能。例えば比較的小さなグリッドを使用すれば、DFの負担を軽減できる。無論、使用グリッドを大きくして参加人数を増やしていけば、メインのトレーニングに発展させられる。
ロンドの種類
ロンドというトレーニングにはグリッドのサイズや形、そして参加人数やルールなどに関する制限はなく、あらゆるオーガナイズのものが考えられる。
とは言え、最もオーソドックスなものは5~8人の攻撃側の選手に対し、2人のDFで守るもの。その場合、攻撃側の各選手は円形グリッドの周辺に等間隔で立ち、DFはグリッド内に入る。もちろん、攻撃側を10人してもいいし、DFを増員してもいい。
発展方法を考えてみよう。
■攻撃側の選手もグリッド内に入れる(上のイラスト)
■ボールを奪ったDFはパスをつなぐ(DF同士、あるいは攻撃側の選手にパス)。継続性をトレーニングにもたらす
■攻撃側をサポートするフリーマンを入れる(下のイラストでは攻守の選手がグリッド内に入っている)
攻撃側のポイント
■正確なパスを心がける
■ボディー・シェイプを常に意識してプレー(スムーズなプレーを心がける)
■遠近を使い分ける。例えば、近くの選手とパス交換することでDFを引きつけたあと、離れた場所にいてプレッシャーを受けていない味方にパス
■ワンタッチでプレーしてDFのバランスを崩す(常に目指すことではないが、大事なこと)
■判断を速くする
■つま先で立つようにして素早く動ける準備
守備側のポイント
■激しくプレッシング
■グリッドの中央付近を通るパスを防ぐ。とりわけ、DFの間を通させない
■プレッシングは全力で実施。試合のペースと激しさを維持(実戦的なトレーニングにする)
ロンドの長所
ロンドを通じて選手は多くのことを学べる。
まず、ドリブルではなくパスが前提になっているため、選手が何度もボールに触れられるため、参加者のレベルを高められる。また、相手のいない技術練習と異なり、相手がいる中で技術を向上できるのも大きなメリット。しかも相手のプレッシャーを比較的受けやすいため、ワンタッチでのパスなど、素早くプレーする意義を感じられる。
素早くプレーする上ではボディー・シェイプに対する意識も持たせられる。体を開いてボールを受けなければ、素早くボールを展開できないからだ。あるいは、DFとの駆け引きやコンビネーションを学ぶ上でも適している。「ワンタッチでパスするように思わせてツータッチでパス」、「ショートパスからロングパスという連係」を楽しみながら実践できる。
ロンドの弱点
ロンドは使い勝手は非常に良く、ポピュラーなトレーニングだが、万能ではない。例えば、サッカーのゲームに必ず含まれている要素がいくつか抜けている。
■方向性がないサッカーの目的はゴールを奪うことであり、選手はゴールを目指してプレーし、ゴールを守るようにプレーする。しかしロンドにはゴールを目指す、ゴールを守るという方向性(攻撃方向)が抜けている。つまり、ゴールを目指すことよりもポゼッションが重視されることになる。無論、ポゼッションも重要だが、ゴールを目指すというサッカーの本質を選手に伝えられないのは大きなマイナスと言ってもいいだろう。
■制限されたパス
ロンドはグラウンダーのパスを使うことが前提になっている。そのため、浮き球やミドル以上のパスをトレーニングするのに適していないことが多い。
■判断
ロンドのDFは素早くボールを奪い返すことが求められる。しかし実際の試合では「プレッシングする、しない」の判断が重要になる。味方と意思疎通しながらボールを奪いに行くタイミングを共有するという点に関して物足りなさがある。
ロンドに対する考え方
■ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ/上写真)
故クライフとは師事関係にあり、6~8人の攻撃と2人のDFというロンドを頻繁に実施。グアルディオラの考え方は明快だ。「近距離の攻撃側の選手がパス交換(ポゼッション)して相手を引きつけ、フリーな選手へパス(サイドチェンジ)して前進」というグアルディオラ・サッカーのベースを基本を理解してもらうようにしている。
■カルロ・アンチェロッティ監督(レアル・マドリード/上写真)
アンチェロッティはロンドの娯楽性をうまく活用する監督の一人。トレーニング・セッションのスタートに実施して『アイスブレイク』の意味も持たせているようだ。彼がよく行なうのはグリッドの外に攻撃の5人、中にDFが2人というロンド。このロンドでは、選手のボールタッチ数が多く、役割のターンオーバーも頻繁に起こる。DFがあまり固定されないため、体を温めるのに適している。
■エルネスト・バルベルデ(アスレチック・ビルバオ)
ロンドの秘める競争性をクローズアップしているのがバルベルデ。チーム・スピリットとファイトを強調していると言ってもいいだろう。彼は選手を3つのグループに分け、2人のDFが入るロンドを同時に行ない、素早く攻撃を阻止することをDFに求める。彼のチームで実施されるロンドは常にハイインテンシティーであり、フィジカル強化にも適している。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部