アイトール・カランカ
ミドルズブラFC, 2013-2017
朝目が覚め、もう試合が自分を待ち受けていない。それは本当につまらない日の始まりだ。
私は3年半ミドルズブラFCにいた。同じことを毎日することに慣れていく。事務所へ行き、トレーニングをし、試合に備える。そんな中ある日突然それをしなくて良くなる。
その時、色々な感情が自分の中で混在する。サッカーは私の人生そのものだが、もう一方で私はまた違う一面を持っている。
私には妻と2人の子供がいる。子供達は朝ごはんの配膳を手伝える年頃になった。学校にも連れて行ける。仕事へ行きたいと思いながらずっと家にいる事を望む人はいないと思うが、妻と子供達は旦那や父親がいる事を必要としている。
サッカーを見ることが大好きだからいつでも見たいと思っている。だが家にいる間、ずっと見るわけにはいかない。自分の時間の90%は家族のためだからだ。
「自分が指揮を取る時、仕事のことで頭がいっぱいになる。だから時には休憩をとることが必要なのだ。」
不思議なのだが、周囲の人々が私に会うと顔つきが変わったことを指摘してくる。
自分では気付かないのだが、以前よりリラックスしていると言われる。私が変わったと。
自分が指揮を取り、本当に上手く先導したいと思うのであれば、その任務について24時間考え続けなければならない。仕事のことで頭がいっぱいになる。ベットに入り、みんなが休みながら眠りにつく頃、自分はずっと考え続ける。
だから時には休憩をとることが必要なのだ。
4年前、私の中ではっきりしていたことが一つあった。指導者としてのキャリアをスペインで始めたくないということだった。
私は選手としての経験も、スペインU-16の代表コーチとしての経験もあった。また、ジョゼ・モウリーニョのアシスタントとしてトップレベルであるレアル・マドリードを見る経験もしたことがあった。イングランドは私がスタートするベストなタイミングであり、一人でやれる事を証明できる素晴らしい機会だった。
とても大変なチャレンジになることは分かっていた。
ミドルズブラにとって私は初めての外国人コーチであり、言葉でさえ正しく話せなかった。その国の言葉を話せることは選手に考えを伝えるという意味で大事なことなのである。そのためにも最初の2年半、私には先生がついた。
「決勝で負け、試合の資料を全て片付けながら、また来シーズン迎えるチャンピオンシップでの46試合の準備をする。それは本当に辛い瞬間だった。」
昔からサポーターの存在は私にとって大事なものだった。調子が悪くてもサポーターがずっと支えてくれている事を感じられたからだ。リバーサイドに1万人ほどの人が駆けつけてくれた。私にとって残り数試合となった今、3万2,3千人のサポーターがいる。
私が初めてチームに訪れた時、みんなが驚いていたかもしれない。クラブにとって初めての外国人コーチである上に新しい形とスタイルを持ってきたからだ。最初のシーズンは簡単に上位にいることができた。次のシーズンも昇格に向けたプレーオフの決勝へ行けた。そして続くシーズンに関しては昇進した。私たちは一歩ずつ積み上げていった。
プレーオフの決勝を負けた時は最悪だった。そのシーズンは55試合闘い続け、良い流れにのっていた。決勝で負け、試合の資料を全て片付けながら、また来シーズン迎えるチャンピオンシップでの46試合の準備をする。それは本当に辛い瞬間だった。
だが私たちはそこで本当に素晴らしい集団をつくることができた。グラント・レッドビター、ジョージ・フレンド、ダニエル・アジャラ、ベン・ギブソン、アダム・クレイトン。イングランドの中心選手達は、そのシーズン私がトレーニングについた時には、彼らがシーズンを楽しみにしていることを感じとることができた。昇格することを信じ、私たちは本当に昇格することができた。
選手の時は、これが人生最後の日だ!と思いながら祝うことができる。グランドで5分でも10分でもサポーターのみんなと楽しんで走り回れるほどだ。
監督は全く違う。その瞬間のために1年かける。25人の選手が自分の指揮のもとプレーをし、30000人のサポーターが自分を支えてくれたため、全てに対して責任を感じるのだ。私はオフィスに戻り30分泣き続けた。
祝賀会は素晴らしかった。私の両親、妻、 兄妹、子供達がきてくれた。彼らと祝うことは私にとって大切だった。その後選手達ともディナーへ行った。
だが監督になるとこう考えるものだ。「今日でチャンピオンシップのリーグは終わりだ。明日からプレミアリーグについて考えなければならない」
前へ進み、とにかく前進するメンタリティを持つ。プレミアリーグで待ち受けているチャレンジは本当に過酷なものであるからだ。
「選手達とのランチを調整するなどしていた。対戦相手の分析動画を見せるより、私たちの良いシーンやポジティブなイメージを持てるものを見せた。」
ミドルズブラで過ごした最後の数日間は他の日とはやはり違った。その時期は自分自身のキャリアが始まったばかりだったのでその状況を体験したことが未だかつてなかった。
最後の2、3週間は色々なことを変えようとしていた。上手くいってなかったからだ。同じことをやり続けるのはできなかった。
選手達とのランチを調整するなどしていた。対戦相手の分析動画を見せるより、私たちの良いシーンやポジティブなイメージを見せた。彼らに自分たちのいいところを思い出させるために見せなければいけないと思った。トレーニングの内容も彼らに自由を与えるなどして色々変えていった。
変化の数々を監督の不安の表れと選手達が捉えないことが大切だ。選手をいきなり6人変え、メソッドを変え、スタイルまでも変えることをしてはいけない。不安を抱えているように映るからだ。変化をもたらす場合、その決断に自信を持ち、迷いを見せないことが一番いい手法なのである。
ミドルズブラで素晴らしい3シーズンを過ごしたが、全シーズンがとても早く過ぎ去っていった。学んだことや上手くいったこと、そうでもなかったこと、全てのことを考える時間がほしかった。間違えから学び、旅をし、世界中の監督たちから刺激を受け、頭の中を一度リフレッシュする時間が必要だった。
振り返る時間の終わりがきた。ここを世界で一番のリーグと思い、できるだけ長くいたいと思う。リフレッシュできたおかげで、自分自身が何を目指したいか知ることができ、また、監督としてのキャリアをどう進めていきたいか明確にできた。プロジェクトを手掛けていきたい。振り返る時間により、頭の中を整理することができ、自信もついた。新しいチャレンジへの準備が整った。
翻訳:澤邉くるみ