2トップでのプレーとは?
2トップのシステムでは、最前線に2人のFW配置。2人のFWは通常、中央に留まり、守備時は相手のセンターバックをマークし、攻撃時にはチャンスをつくってゴールを決める。これが主な役割だ。また多くの2トップは、両者が補完関係になるコンビで形成される(この原稿ではGKの「1」を省略してシステムを表記)。
2トップの起源
20世紀に入ってサッカーの戦術が大きく発展し、「攻撃よりも守備により多くの選手を起用」するのが一般的になっていった。
1940年代~1960年代にかけて監督を務めたハンガリー人の故マールトン・ブコヴィ(1903年12月10日-1985年2月2日)はシステム変更の先駆者と考えられている。彼は、当時の主流だった『WMシステム』(Wの上部が3トップ)から2人のインサイドフォワードを前線に上げ、同時にセンターフォワードを下げた。つまり、「フロント4」(「3-2-1-4」に近い)を形成したのだ。この布陣の大きな特徴は、相手ゴールに最も近い中央エリアに2人のFWを配置したことだ。
そして、1954年のワールドカップでハンガリー代表を決勝まで導いた故グスタフ・セベス(1906年1月22日- 1986年1月30日)が『WMシステム』からの変化をさらに推し進めた。まず3人いるフルバック(Mの下部)の間隔を広げ、1人のハーフバック(Mの上部)を最終ラインに加えて4バックを編成。さらに、ブコヴィのように前線から下げたセンターフォワードと残りのハーフバックで中盤を編んで「4-2-4」システムを完成させたのだ。1953年にウエンブリー・スタジアムでイングランド代表を6-3で下した衝撃的な結果は、この画期的なシステムの成果と言われている。
ハンガリー人の故ベーラ・グットマン(1899年1月27日-1981年8月28日)も「4-2-4」の使い手と知れられている。サンパウロFCの監督を務めた彼がブラジルに「4-2-4」を伝え、1958年のワールドカップで優勝を手にしたブラジル代表も「4-2-4」を採用していた。
そして「4-4-2」システムの生みの親と言われているのがロシア人の故ヴィクトル・マスロフ(1910年4月27日-1977年5月11日)だ。4人で構成される4トップ(「4-2-4」)から両ウイングを下げたことによって現代的な「4-4-2」の基礎を築いた。さらに1990年のワールドカップでは、西ドイツが2トップと3バックを組み合わせた「3-5-2」で優勝した。
攻撃時の任務
どのようなフォーメーションでも、FWの基本的な役目はゴールを決めること。だが、2トップでは、パートナーのためにチャンスを作り出すのも重要な役目になる。さらに、攻撃に切り替える時はサイドに走って前線への直接的なパスコースを作り、カウンターを可能にすることでディフェンス陣の負担を軽減できる。また、このような動きはサイドの選手が中へ走り込むためのスペースを空けることにもつながる。
では、2トップに起用される選手に求められる資質を見ていこう。
ライン間でボールを受ける能力、背後からのプレッシャーへの対応力、そしてDFに競り負けることなく中盤のチームメイトと連係できる能力だ。そのため、相手のセンターバックに屈しない上半身の強さも重要だ。さらに、細かいタッチ、フリックやヘディングができ、チームメイトと連係するためのテクニックも求められる。
特におとりの動きをする時には、ボールに近づいたり、ボールから遠ざかったりする動きでDFを置き去りにし、もう1人のFWのためにスペースを空けたりDFとの「1対1」の状況を作ったりできるといい。また、ペナルティーエリア内における密な連係が可能であれば、チームメイトをフリーにできる。
守備時の任務
2トップの基本的な守備任務は中盤へのパスコースを塞ぎ、中のスペースを封鎖することになる。具体的には、ボールに近いFWが前衛、後衛になるもう1人が左右に動いてカバーする。サイドチェンジされたら役割を交代して相手にプレッシャーを掛け続ける。
戦法による違いもある。
高い位置でプレスを掛ける時は、2トップは相手のセンターバックに寄せるのが基本。そして相手のプレーをサイドへと押し込み、サイドチェンジを阻止して相手の攻撃ルートを狭める。あるいは、内側に向けてプレスを掛け、相手のプレーを中央エリアに制限する方法もある。さらに、前線のFWが相手選手の背後から寄せ(プレスバック)、前からプレスするMFとサンドイッチしてボールを奪ってもいい。
2トップの成功例
アトレティコ・マドリード(ディエゴ・シメオネ監督)
ディエゴ・シメオネ監督は古くから、攻撃時も守備時も「4-4-2」を駆使。引いて守ることが多く、攻撃時には2トップ(7番のGriezmannと9番のMorata)は中央に留まり、サイドのMFも中央に移動して2トップをサポートする(最初の写真)。するとサイドにスペースが生まれ、攻め上がったサイドバックがそのスペースを利用してクロスを送る。なお、中央のMFは深い位置を維持しつつ、2トップの一方はやや下がり目のポジショニングをとることが多い。リーグを制覇した2020-21シーズンでは、ルイス・スアレスのパートナーとして少し後ろで構えたのはジョアン・フェリックスかアンヘル・コレアだった。
バーンリーFC(ショーン・ダイチ監督)
バーンリーのダイチ監督はほとんどの試合で「4-4-2」を使い、シメオネ監督と同様、守備的なサッカーを実践(上写真)。A・マドリードとの違いもある。それは、ロングパスを多用する点だ。素早く2トップにパスして速攻を仕掛けるためだ。
空中戦に強い選手をFWに揃える傾向にも監督の好みがうかがえる。そして空中戦の強さを活かすために、サイドバックや同サイドにいるボランチ(4番のCorkと18番のWestwood)とサイドハーフ(11番のMcNeilと25番のLennon)がサイドを攻略し、オーバーラップやアンダーラップからクロスを送る。
ユヴェントス(アントニオ・コンテ時代)
コンテ監督(現在はトッテナム)も2トップを好んで使う。ユヴェントス時代の「3-5-2」では、抜群なパートナーシップを見せたカルロス・テベス(10番のTevez)とフェルナンド・ジョレンテ(14番のLlorente)を前線に起用(下写真)。テベスはラインの間のスペースまで下がり、「8番」(インテリオール)のポール・ポグバ(6番のPogba)やアルトゥーロ・ビダル(23番のVidal)などとの連係プレーを見せた。一方のジョレンテは体格を活かす。駆け上がったウイングバックのターゲットになったり、バックラインやピボット役のアンドレア・ピルロ(21番のPirlo)からボールを引き出したりしてダイレクトな攻撃を演出。また、収めたボールをテベスや「8番」、そしてウイングバックへ供給することもあった。
2トップは攻守において4バックの相手センターバック(「2対2」)、3バックの全選手(「2対3」の数的優位がセオリー)の動きを牽制できる。そして特に攻撃時の2トップは中央で存在感を発揮。陣形を動かしたり選手を移動させたりしなくても中央突破を仕掛けやすいからだ。しかも、相手センターバックと中央で「2対2」になれるのはプラスに働く。なぜなら、一方のFWに相手センターバックが寄せれば、残りのFWが寄せた相手の背後を突きやすくなるため、相手センターバックは前に出づらくなるからだ。
また、2トップは最前線での役割を分担しやすい。対照的に1トップでは、攻撃、守備、攻撃への切り替え、守備への切り替えの4局面で1人のFWが働くため、かなりの運動量が求められる。
攻撃面でも恩恵も大きい。パスを受け、ボールを収めるための選択肢が増えるため、より簡単に前線までボールをつなげる。このメリットはカウンター攻撃を志向するチームには理想なものだ。
2トップの短所
言うまでもなく、トップの人数を増やせば、MFかDFの人数が減る。結果、ボールに関われる選手が減れば、パスの質と量が低下する(ボール保持力の低下を招く)。さらに、守備的になりすぎることは2トップを前線で孤立させる。
一方、2トップの2人は互いの長所を理解し、協力しなければならない。ボール保持時にはパートナーのためにチャンスを演出し、オフ・ザ・ボール時にはチームメイトのために動かなければならない。ゴールを決めることに執着し、パートナーのサポートを考えない選手の存在はチームの攻撃力を低下させるため、2トップ起用には向かない。
翻訳:西澤幹太