レジスタとは?
イタリア語である『レジスタ』(regista)は監督や演出を意味する。サッカーでは、最終ラインの前、多くの場合は中央でプレーする創造的なプレーヤーを指す。ボールに多く関わり、最終ラインと攻撃の架け橋となるのだ。主にパスを駆使してゲーム展開やゲームのテンポをコントロール。フィールド上の監督と言っていい。
また、英語圏では深い位置の司令塔を意味する『ディープ・ライイング・プレーメーカー』とも呼ばれる。
なお、この原稿ではGKの「1」を省略してシステムを表記する。
またイタリア・サッカー界には「3/4の人」を意味する『トレクァルティスタ』(Trequartista)や『ファンタジスタ』(Fantasista)、そして『メッツァーラ』(mezzala)という表現も存在する。
・トレクァルティスタ=フィールドを4分割した際、前から2番目を主戦場にして得点に絡む選手
・ファンタジスタ=アドリブを発揮してチャンスを作り出す選手
・メッツァーラ=「4ー3ー3」(逆三角形)において前に位置する2人のMF。スペイン・サッカーで言うインテリオールに相当
レジスタの歴史
レジスタの生みの親は、イタリア人の故ヴィットリオ・ポッツォ(1886年3月12日-1968年12月21日) と言われている。現役時代にグラスホッパー・チューリッヒ(スイス)やトリノFCでプレーした彼は引退後、指導者へ転身。イタリア代表監督として1934年と1938年のワールドカップを制覇し、1936年にはベルリン・オリンピックでも優勝している。
1920年代になると3バックの「WM」システムが登場したが、彼は「2-3-5」システムを好んで用いた。ただし、「3」の中央に位置するセンターハーフにそれまでよりも攻撃的なプレーを要求。相手ゴールに向かってチームの攻撃を導くようなプレーを望んだ。結果、センターハーフ(後のレジスタ)がパスを華麗に操ってプレーをコントロールするようになった。
攻撃時の役割
最終ラインの前に陣取り、DFやGKからパスを引き出してプレーを前進させるのがベースの役割となる。360度の方向からプレッシャーを受けるため、プレッシャーを物ともしない高い技術だけでなく、ボールを受ける前から周囲の状況を把握し、状況にかなったプレーを選べる高い判断力も欠かせない。
レジスタの起源から求められているように、レジスタはチームをゴールへと導く役割を担っている。主に深い位置でプレーするため、主たる武器はパスになる。鋭利な縦パスでFWをゴールに向かわせたり、正確なロングパスでサイドチェンジを促してゴールへの道筋を切り開いたりする。また、長いパスばかりでは攻撃が単調になるため、ショートパスで目の前の守備ラインをブレイクして相手の裏をかくようなプレーも織りまぜる。
つまり、ボールを縦に放り込めばいいわけではない。縦、横、そして斜めなどの方向、そして遠近の距離を組み合わせて攻撃を組み立てられるような判断に裏付けされたセンスが求められる。もちろん、パスを引き出すためには相手の陣形を察知した上での的確なポジショニングも必要不可欠だ。
守備時の役割
「攻撃から守備」への切り替え時にまずすべきはピッチ中央への侵入しようとする相手の動きやルートを制限すること。前進を阻止しなければならない。同時に、最終ラインをプロテクトするためにリトリートしてバイタルエリアのスペースを埋めるように動くことを意識する。
ブロックを構築して守るケースにおいてレジスタの役割は最終ラインをスクリーンすること(ボールと最終ラインの間にポジショニング)。相手FWへのパスコースを消しつつ、可能な時には相手FWへのパスをインターセプトする。さらに、『デュエル』している味方をサポートしたり、セカンド・ボールをピックアップしたりするために距離を誤らないような「目の良さ」を身につける必要もある。
成功を収めた代表的なレジスタ
アンドレア・ピルロ
アンドレア・ピルロ(1979年5月19日生まれ)はレジスタの最高傑作と言って差し支えないだろう。彼は計り知れない技術的才能を持ち、いかなるプレッシャーもはね退け、ゆっくりとしたポゼッションをいきなり危険な攻撃に変えるマジックの使い手。アタッキング・サードにおける危険地帯を察知して使い切る嗅覚の持ち主でもあった(上写真)。
ACミラン(2001-11シーズンに所属) では、カルロ・アンチェロッティが導入した「4-3-1-2」システム、あるいは「4-3-2-1」システムにおいて存分に存在感を放った。ジェンナーロ・ガットゥーゾ、クラレンス・セードルフ、あるいはマッシモ・アンブロジーニというハードワーカーを従えたピルロは「3」の中央に君臨して面白いようにパスを通した。ユベントス (「アントニオ・コンテ監督時代)に移ってからは「3-5-2」システムでプレーするようなるが、「5」の中央でレジスタとしてプレー。アルトゥーロ・ビダルやクラウディオ・マルキージオ、ポール・ポグバのバックアップを受けてパス能力を発揮し続けた(2011-15シーズンに所属) 。
ジョルジーニョ
ピルロの後継者とも言えるジョルジーニョ(1991年12月20生まれ)が一躍脚光を浴びたのはマウリツィオ・サッリ率いるSSCナポリに移籍してから。「4-3-3」システムで中盤の底(「3」の中央)に入り、攻撃のタクトを振った。彼を特徴付けているのが1タッチ、2タッチでショートパスを繰り出し、攻撃のリズムを刻むこと。ただし、それだけが彼の武器ではない。相手のスキを見つけるやいなや前線に入り込む味方(17番のHamsik)にロングレンジのパスをピタリと届けてビッグチャンスを生み出す(下写真)。トーマス・トゥヘル監督が指揮するチェルシーでは「3-4-3」システムのボランチとしてプレーし、2020ー21シーズンのチャンピオンズリーグ制覇に貢献。イタリア代表としてはEURO2020で優勝の美酒を味わった。
レジスタ起用のメリット
中盤の底に存在するレジスタは比較的プレッシャーを受けにくく、ボールを保持しやすい。そして、レジスタがボールを落ち着けることでチームとしてボールを前へと運びやすくなる。さらに、長距離のパスを相手陣内に差し込むことで相手の守備に穴を空けたり、スペースを生み出したりもできる。
相手と競り合うことも(特に攻撃時)少なくできるため、肉体的な強さを持たない選手でもレジスタとしてプレーでき、他を圧するようなスピードを求められずにすむ。つまり、十分なテクニックと状況判断能力を有すれば、アスリート・タイプの選手でなくてもプレーできるポジションなのだ。つまり、技術が高く、身体的に劣る選手の起用を可能にする。
レジスタ起用のデメリット
レジスタはポゼッションのハブになることが求められるため、テクニカルな選手であることが多い。反面、肉弾戦に弱さを見せるケースが散見される。そのため、そうした選手の弱さを補うために守備力の高いハードワーカーを配置する迫られる。レジスタの欠点を補完できる選手を欠くチームでは戦術を再考すべきだろう。
レジスタに依存しすぎるのもリスキーだ。「レジスタを潰せばいい」と判断した相手がレジスタにマンマークを施したならば、ビルドアップ力とポゼッション力が著しく低下するからだ。すると、サイドや前線へのロングボールに終始することになって主導権を失うことになる。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部