インサイド・フォワードとは?
近代サッカーにおけるインサイド・フォワードは、3トップの両サイドに配置された選手、現代的なポジション理解ではウイングを指す言葉となる。ただしインサイド・フォワードは、古典的なウイングと異なり、ワイドなポジションからゴールに向かって斜めにドリブルしたり、『ハーフスペース』に意図的にポジショニングしたりして中央寄りのエリア(インフィールド)を攻略する。端的に言えば、縦への突破ではなく、ゴールにアプローチすることをメインタスクにする選手となる。
ゴールを目指しやすくするため、インサイド・フォワードを担う選手は伝統的な考え方と「相反するサイド」でプレーする。例えば、左利きの選手を右のウイング、右利きの選手を左ウイングに起用し、カットインして前のDFをブロックしながら「遠い足」でシュートを打てるようにするのだ。
インサイド・フォワードの由来
インサイド・フォワードという言葉は昔からあるが、時間の流れと共に言葉の意味や役割は大きく変化してきた。
そもそもは、19世紀後半から20世紀前半にかけて「2-3-5」システムが主流だった頃、5トップの中央に構えるセンターフォワード(背番号は9)の両脇を固める2人の選手(背番号は8と10)をインサイド・フォワードと呼んだ(さらに大外に位置する両サイドの2人がウイング=背番号は7と11)。インサイド・フォワードは3人のハーフバック(背番号は4、5、6)の前でプレーして、センターフォワードをサポートした。
しかし、「WM」フォーメーションの効果が知れ渡ると、インサイド・フォワードのポジションを下げるのが一般的になる。3トップ(「W」の上部)の後方に位置し、「W」の下部でプレーするようになったのだ。
つまり、現在のインサイド・フォワードが指すポジションはかつてのものとまったく異なると言っていい。ウイングのいち形態と理解していいだろう(本来のウイングの位置とセンターフォワードの間でプレーすることが多く、かつてのインサイド・フォワードに立ち位置が似ているためにインサイド・フォワードという言葉が使われるようになったと思われる)。
攻撃時のインサイド・フォワード
インサイド・フォワードがチームにもたらす最も大きなメリットはゴールへの積極性だ。そのため起用される選手には、サイドからゴールに向かってドリブルする能力、とりわけ相手の警戒するエリアを通過できる能力が求められる。「1対1」を攻略できるテクニックが欠かせない。
前述の通り、インサイド・フォワードは通常、利き足とは逆サイドに起用され、サイドからドリブルして進めため、広いアングルを確保してシュートを打てる。高いドリブル・スキルだけでなく、長短のシュートを操れたほうが「成功」の可能性が高まる。
インサイド・フォワードによく見られるシュートは、GKを迂回するような曲線を描いてファーポスト際に吸い込まれるもの(上写真。11番のSalah)。また、逆サイドからのクロスやシュートのこぼれ球を自分にとって近いポスト際にたたき込むのも有効だ。
インサイド・フォワードとして成功するにはオフ・ザ・ボールの動きも重要な要素。逆サイドを味方が攻略した際、センターフォワードが相手DFを引きつけて深い位置に入り、インサイド・フォワードがペナルティーマーク付近でボールを受けるケースがある。この時、優れたインサイド・フォワードという評価を得るにはマーカーを置き去りにしてタイミング良くボールにコンタクトする必要があるからだ。一方で、インサイド・フォワードがゴールライン際まで切れ込んだならば、ゴール前に詰めるセンターフォワードのタイミングを見計らってパスすることがゴールの可能性を高める。
守備時のインサイド・フォワード
「逆サイド」に起用されることの多いインサイド・フォワードは守備時に強さを発揮するとも考えられている。例えば、インフィールドにポジショニングしていることが多いために守備に切り替えた時にカウンター・プレスで密集を作りやすく、しかも利き足を内側にしているためにボールをカットしやすいからだ。ボールの即時奪還やショート・カウンターを繰り出すのに適している。
また、インサイド・フォワードはアタッキング・サードで主にプレーするため、深いエリアでボールを失った時にカウンター・アタックを阻止するという重要な役割を担う。また攻撃時にインサイド・フォワードのプレーに合わせてほかの選手がポジションを変更するのと同じく、守備に切り替わった際にはパスコースを消したり、相手をスクリーンしたりすることで攻撃参加していた選手の帰陣を促せる。
チームが守備ブロックを構築して守る際にはチームの約束事に従うことになる。例えば、インサイド・フォワードは、中盤(2列目)まで下がってラインを作ったり、フォワードライン(最前線)でラインを作ったりする。
インサイド・フォワードの成功例
リオネル・メッシ
デビュー当時(2004-05シーズン)のメッシは、右から中に切り込む左利きのアタッカーという色合いが濃かった。10代の頃から比類なきドリブルで脚光を浴びていたが、キャリアを重ねるにつれ、ゴール数が増加。右から中に入るインサイド・フォワード、そして「偽9番」としてゴールの山を築いた(スペイン・リーグ通算520試合出場474得点)。
誰もがインサイド・フォワードとしてのメッシが創造性と攻撃力において秀でていると考えるだろう。あらゆるプレーを高いレベルで実行するが、とりわけ眩い輝きを放つのが『リバース・ショット』。右サイドからカットインしてニアポストへ低く鋭いシュートを突き刺すものだ(上写真。10番のMessi)。
モハメド・サラー
メッシと同じくサラーも左利きのインサイド・フォワード。ただし、インサイド・フォワードの中でもフィニッシュに特化したタイプと言える。右サイドからドリブルで斜めに進んでシュートを打つだけでなく、フリーランから相手センターバックの背後や横で受けてフィニッシュに持ち込む。また、ほかのインサイド・フォワードよりも中寄りのポジショニングを好むのも特徴の一つと言える。そのため、短いドリブルや少ないタッチ数でシュートを打つ。
クリスティアーノ・ロナウド
キャリア通算60回のハットトリックを数えるクリスティアーノ・ロナウドは1トップでも2トップでもプレーするが、ゴールを奪えるインサイド・フォワードとしても屈指の選手だ。レアル・マドリード時代には中央寄りのポジションからスタートして頻繁にシュート・チャンスを生み、さらに右からのクロスをたびたびゴールに押し込んだ。
多くのインサイド・フォワードは、足の内側で放つ曲がるシュートでゴールを決める。しかしC・ロナウドは信じられないほどパワフルなショットをファーポスト際にたたき込むのを得意としている(下写真。7番のRonaldo)。
導入チームの成功例
・アリエン・ロッベンやフランク・リベリー(バイエルン・ミュンヘン)
・クリスティアーノ・ロナウドやガレス・ベイル(レアル・マドリード)
・ネイマールとリオネル・メッシ(FCバルセロナ)
・モハメド・サラーとサディオ・マネ(リバプール)
・ラヒーム・スターリングとリヤド・マフレズ(マンチェスター・シティ)
インサイド・フォワードのメリット
最大のメリットはゴールへのルートを複数確保できること。しかも、インサイド・フォワードの見せる斜めに走りながらゴールへ向かう動きを相手がフォローし続けるのは簡単ではない。結果、シュート・チャンスを生み出せる回数とスペースが増える。さらに、センターバックに向かって頻繁にフリーランを仕掛けることで相手にプレッシャーを与え、守備組織を混乱させられる。
メリットは、インサイド・フォワード自身がゴールにアプローチしやすいというものだけではない。インフィールドに移動することで相手サイドバックを引き込み、味方のMFやサイドバックがオーバーラップするスペースを生み出せる。もちろん、インサイド・フォワードがインフィールドに入ることは中央でのオーバーロードを作り出す。さらに、ライン間でパスを受けるプレーを組み合わせられれば、パスの選択肢を増やすことでチーム全体を前進させられる。
インサイド・フォワードのデメリット
インサイド・フォワード導入にはハードルもある。斜めのドリブルをフォローするには簡単ではないとは言え、守備側もアタッキング・サードで手をこまねいているわけがない。インサイド・フォワードに起用される選手は高いスペックが求められ、そういう選手の獲得が大前提となる(豊富な資金が前提とも言える)。仮に、要求を満たさない低スペックの選手をインサイド・フォワードに起用すれば、たびたびボールをロストしてカウンター・アタックのきっかけを与えるだろう。
もう1つのハードルは前線における幅の確保。オーバーラップする味方(サイドバックが理想だが、MFでも可)がタイミングの良い攻撃参加と効果的な攻撃を見せられなければ、最終ラインを横に広げられない。すると相手は中央エリアの守備に注力でき、ゴールへのルートを作りにくくなる。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN 編集部