ゾーン・ディフェンスとは?
ゾーン・ディフェンス(ゾーン・マーキング)とは、選手と選手をマッチアップさせることよりも、スペースのコントロールとスペースを守ることを優先させるディフェンス戦術である。なおゾーン・ディフェンスは、オープンプレーでもセットプレーでも使われる(下写真)。
サッカーにはボール、対戦相手、対戦相手の特定選手、スペースという主に4つの基準があると言われている。ゾーン・ディフェンスは、4ポイントの内、いずれか1つに対する集中を高めて守る戦術である。
ゾーン・ディフェンスの歴史
ゾーン・ディフェンス誕生には諸説あるが、1950年代にブラジルで生まれたという説が有力だ。
当時、フルミネンセを率いていた故ゼゼ・モレイラ(1917年11月16日-1998年4月10日)がWMシステムにおけるオーソドックスなマン・トゥ・マン・ディフェンス(マン・マーキング)からの脱却にトライ。マン・マーキングの3バックからゾーン・マーキングの4バックへと転換した。
後年、故リヌス・ミケルス(1928年2月9日-2005年3月3日)やアリゴ・サッキ(元イタリア代表の監督)といった名監督がこのアイディアを時代に合わせて発展させて一時代を築いた。
ゾーン・ディフェンスにおける選手の役割
ゾーン・ディフェンスの基盤は、水平方向と垂直方向におけるコンパクトさを優先してディフェンス構造を作ること。当然、選手は動きながらも選手同士の距離を適切に保たなければならない。
コンパクトな守備の主な目的は前進を簡単に許さず、相手に攻め急がせることや焦れを誘うことにある。優先すべきはブロック内への進入阻止であり、ボールが守備ブロック外にある時はボールを動かされることを甘受。焦ってプレッシャーをかけるのを避け、忍耐強く守らなければならない。
続いては、先述した4つの基準点を個別に分析する。
■スペース
スペース管理(守備)に重きを置いたケースでは、ピッチ上の特定のエリアでオーバーロードにされることを優先的に避け、相手の特定の攻撃的プレーを無効化することを目指す。ただし特定エリアでの守備を重視するため、それ以外での主導権を手放すことも少なくない。
■ボール
ボールの位置に応じて個々の選手、ユニット、ブロックの位置を変えていく。ボールを中心にしたこの戦略の基軸は、ゲームにおける瞬間瞬間に対応することと言える。プレーする選手には、ゲームへの理解、ゲーム・インテリジェンス、予測、そしてチームには団結力と良好なコミュニケーションが欠かせない。実現は簡単ではないが、実現の暁には、ディフェンス・ブロックから選手が離れてギャップが生まれたり、相手に利用されたりするリスクを軽減できる。
■対戦相手か特定の選手
基本的には、守備ブロックを築いて選手は担当エリアを守ることなる。しかし、相手の動きに合わせてポジションを変えたり、特定の選手がボールを受けた時にはその選手に対応するために守備ブロックを変形させたりする(上写真)。マン・マークキングと異なるのは、「相手をどこまでも、あるいは常にマークするわけでないこと」。「ある選手がアタッキングサードに入った時」など、具体的なシチュエーションを指定した上で個々の選手は任務を遂行することになる。
セットプレーにおけるゾーン・ディフェンス
相手のセットプレーに対してゾーン・ディフェンスで守る場合、各選手には担当エリアが振り分けられ、責任を持って担当エリアを守る。特に中央のディフェンスが優先されるが、『6ヤード・ボックス』(ゴールエリア)の幅よりも外側をカバーする選手もいる。
まず、CKに対するゾーン・ディフェンスを見ていこう。
2つのユニットで守ることが多い(下写真)。ゴールよりも離れたユニットは深い位置からの折返しやアウトスイングのボールに対処し、さらに相手のランニング・コースを制限することでゴールに前に走り込ませないようにする。ゴールに近いユニットは、インスイングのボールをはね返すこと、そしてゴールに近づいてきたボールに誰よりも早くコンタクトすることが期待される。
2つにユニットの配置人数にはいくつかの種類がある。一方のユニットに8人、もう一方のユニットの2人という極端なケースもあるが、ゴール近くのユニットに4、5人を割き、残りの選手は高い位置のブロック役になったり、両ポスト付近を守る役割を負ったりすることが多い。
再開後、ニアポストにいる選手(『ストーン』とも呼ぶ)の頭上をボールが越えたならば、ストーンはゴールライン上にポジショニングし直して相手のシュートをはね返すことに備える。
また、ペナルティーエリアの端に1人か2人の選手を配置するのも一般的。彼らは、ショートコーナーを相手が選んだ時にプレスし、ルーズボールを回収してカウンター・アタックを仕掛ける。このような役割を担うのは空中戦を苦手にする選手であることが多い。
FKでは、選手間のギャップを小さくしつつ、最終ラインの高さに細心の注意を払わなければならない。GKと共にボールをはね返すことに主眼に置くためにラインを深くしたり、オフサイドを狙うためにラインを高く設定したりすることになるが、相手の出方に合った前進と後退が必要だ。
DFは体の向きにも気を配りたい。ボールを見ながらゴールへ戻ったり、ゴールから離れたりする時、適切な体の向きにできなければDFの視野は限られるからだ。
ゾーン・ディフェンスからの攻撃
ゾーン・ディフェンスをチームに浸透させられたならば、相手は簡単には崩せない。無理してでも崩そうとすれば相手は攻撃に人数を割き、前がかりになる。すると、ボールを奪ってからの素早いカウンター・アタックを有効打にしやすい。
カウンターを繰り出す上でのポイントは、一気に選手が散開すること。ボールを奪ったら最初のパスを確実につないで落ち着かせ、その間に一気に選手が広がって攻撃にシフトできるのが理想。それができなければ、(スペースの少ない)コンパクトさが自分たちのポゼッションを妨げ、カウンタープレスでボールを失えば挽回不能なピンチを招くだろう。
ゾーン・ディフェンスのメリット
ゾーン・ディフェンスは、コンパクトな守備陣形が不可欠な守備戦術であり、失点に直結しそうなエリアを優先的に守れる。そのため攻撃側に対し、得点を奪えそうなエリアや攻撃の起点とするエリアでのプレーを困難にさせられる。つまり、ゾーン・ディフェンスの戦略的目的は、攻撃的なアプローチの変更を相手に強いることと言ってもいいだろう。
守る選手は担当エリアから相手選手やボールに対してアタックすることになり、スタートのタイミングを図りやすく、しかも元のポジションに戻りやすい。マン・マーキングと比較した際の利点は、守備陣形を維持しやすく、守備ブロック内にギャップを生みにくいことだ。
セットプレーにおける守備を例にしたほうが、ゾーン・ディフェンスのメリットは想像しやすい。
決められたポイントからゴール付近にボールが蹴り込まれることの多いセットプレーでは、相手はフエリーランやスクリーン・プレーによって守備に揺さぶりをかけてくる。マン・マーキングでは相手に振り回されるリスクを背負うが、ゾーン・ディフェンスでは相手の動きは関係なく、ボールの軌道に集中して守れる。また、ショートコーナーやトリックプレーをされたとしても、守備陣形が維持されているため、攻撃の第2波にも備えやすい。
ゾーン・ディフェンスのデメリット
ゾーン・ディフェンスはコンパクトなブロックを戦術の基盤とするため、ブロックの外では相手に主導権を譲りがち。多くのエリアを相手に譲り渡すことによって時として、練り上げられた攻撃を許す猶予を相手に与えかねない。また、刻々と変化する相手に合わせながらもコンパクトさを保つには、一人ひとりの選手が常に集中し、仲間とコミュニケーションし続けなければならない。集中力を欠いた選手の存在は致命的なスペースにつながりかねないからだ。
一方、攻撃力ダウンを引き起こす可能性も否定できない。例えば、得点能力の高い選手も帰陣してブロックを形成しなければならないため、低い位置からスタートしてゴール前に達するのに時間を要するケースもあるからだ(ブロックの形成位置にもよる)。
とりわけセットプレーでは、ゾーン・ディフェンスはネガティブに語られやすい。
相手の動きに合わせる必要がない反面、静止しているDFはボール・ウオッチャーになりやすい。また、ブラインドから目の前に入られるとどうしても反応が遅れ、あるエリアに狙いを定められた時にはオーバーロードに持ち込まれやすい。ミスマッチの発生も避けがたい問題だ。クリアすべき課題はもう1つある。それは「境界上の対処」。担当エリアを決める戦術である以上、エリアとエリアの境界というものがどうしても存在する。境界にボールがある時や相手選手に突かれた時、譲り合ったりして混乱が生まれやすい。その対処方法を織り込む必要があるのだ。
ゾーン・ディフェンスの代替案
代案となるのがマン・マーキング。この守備戦術では、各選手がマークする選手を事前に決め、その相手選手を追いかけ続ける。つまり、相手に対してプレス、追跡、デュエル、進路の制限、そして1対1を継続することになる。
ただし、ゴール前などの危険なエリアにボールが到達した際にはDFは通常、マン・マーキングをやめ、ゴールを脅かすアタッカーに寄せてオーバーロードにする。
ゾーン・ディフェンスの主な使い手
ディエゴ・シメオネ
2011-12シーズンからアトレティコ・マドリードのベンチを預かる彼は低いエリアに守備ブロックを組み、ライン間と選手間をコンパクトに保つことを求める。システムは「4-4-2」。2人のFWが相手ピボットの前に立ちはだかり、両サイドハーフは中に絞ってインサイド・チャンネルをカバーする(下写真)。最終ラインの4人は一糸乱れぬ動きでスライドし、サイドバックが相手選手をタッチライン際に押し出すようにして自由を奪い、ボール奪取を試みる。
ジョゼ・モウリーニョ
コンパクトな守備のチームを作ることに監督キャリアの多くを費やしてきたのがジョゼ・モウリーニョだ。ローブロックを敷いてゴールを守り、奪ったら鋭利なナイフのようなカウンター・アタックからゴールを強奪して相手を苦しめた。チェルシー、インテル、レアル・マドリードで国内リーグを制した時にも基本的な守備の構造は同じ。とりわけチェルシー時代には、「Park the bus」と呼ばれたゴール前にバスを止めたような守備が非難を浴びたこともあった。2010-11シーズンから3シーズン、指揮したレアル・マドリードは「4-2-3-1」システムを採用(下写真)。守備時には「4-4-1-1」にシフトして中央を固め、サミ・ケディラ(6番Khedira)とシャビ・アロンソ(14番のAlonso)のダブル・ピボットはアタック&カバーを繰り返して相手の攻撃を牽制した。
アントニオ・コンテ
率いるトッテナムでは5バックに移行して守備(上から2番目の写真)。その際、2人のボランチがピッチの中央をカバーし、ハリー・ケイン(10番のKane)も前線から下がって守備に貢献する。なお、狙いを定めている特定の相手がボールを持つと、ボランチの一人が飛び出し、ボール保持者に寄せる戦略的オプションも持つ。センターバックがラインをブレイクして飛び出し、スペースを埋めることもある。
翻訳:The Coaches’ Voice JAPAN編集部